.

批評や分析ではなく個人の感想だよ

藤森さんが好き

 「友達100人できるかな」「FLIP FLAP」「金剛寺さんは面倒臭い」がどれも面白かったのですが、作者がマンガ大賞獲ったと聞き、購入。
 とよ田みのる作品って、漫画ならではの仕掛けをコマ割り・作画・構成等に取り込んでいく技術が抜群に高く、登場人物の基盤となるものの捉え方が割と陰性で、マニアから愛されている漫画という印象だったのですが、「これ描いて死ね」はマニアックな部分は残しつつも、舞台の美しさ・キャラの可愛さ・明るい部活ものと、キャッチーな部分が前面に出ていて、かなりとっつきやすい印象。
 そして、題材の『漫画』についての切り込み方は、その両面へアプローチしている姿勢がよく出ていたな、と。
 
 漫画の陽の部分・キャッチー担当:安海(と同級生たち)
 漫画の陰の部分・マニアック担当:手島先生(と漫画に関係する大人たち)
 
 に分け、空想の友達を産んでくれた敬愛する漫画家手島先生を追う漫画描き初心者の安海と、安海の純粋な漫画愛に救われる漫画の夢を諦めた手島先生という、一方通行ではない、お互いに前向きなエネルギーを与え合う関係を作品の軸として描いているのは、秀逸な設定でありました。
 加えて、悪人を描かないスタンスが貫かれているのは、今作の前向きで爽やかな読みあじをプラスしていて、好印象。(金剛寺・フリフラ・友達もそうだったので、作者の作風なのかもですが)
 作中藤森さん母を指して石龍さんの台詞
 「なんにもカッコよくないよ。あの人は悪人じゃないし、今頃きっと傷ついてる」
 とか、さりげないけど格好良い。
 決して突飛な台詞ではなく、ジュリアおたあの歴史をググっただけで号泣するような、相手の背景を実感を持って想像できる(が、接する際の距離感は掴めない)石龍さんらしいものですし。
 本編も面白かったのですが、手島先生を主人公にした番外編の「ロストワールド」が漫画制作上の狂気を描いた予想外の傑作。というか、どっちかというとこっちの方が私にとっての本編…
 「お前らみんな殺す!!面白さで殺す!!!」
 の見開きから陰の気迫が迸ってて、素晴らしかったです。
 これを経ることで、安海のキラキラに心を揺さぶられる手島先生の心情が深く理解でき、本編2周目がより面白い。
 ラストの手島先生の手を握った「子供の時の親友」(某猫型ロボット)の血脈が、手島先生が生み出したポコ太を心の友にしている安海に受け継がれていることを思い…作り手が意識して込めなくても、人生とか思想みたいなものって良くも悪くも作品に滲み出ていて、それを感じ取る受け手はいるし、そんな受け手の人生を変えちゃうような力もあるんだというのを、ここで実感して、グッときました。石龍さんが漫画を通して人を感じるって、こういうことなんだろうな。
 「これ描いて死ね」正式なタイトル回収は番外編の方が先でしたが、本編で回収することはあるのでしょうか。手島先生バッドエンドが見えている過程で出た台詞なので、安海がいつかプラスの意味に更新してほしい。
 それにしても、手島先生は安海にぐいぐい押されるわ、石龍さんにズキュウウウンされるわ、古本屋店主に小声で告白されるやらで、総受け体質だなあ…美形の女子校生をさしおいて、黒髪ひっつめ眼鏡おそらく三十路の女教師が女にモテモテ。
 どの女性キャラクターもいきいきと、魅力的に描かれていますが、確実に作者に一番愛されて描かれているであろう人が、手島先生。
 とよ田みのるって凄い作家だなーと改めて思ったので、ボーナス出たら過去作全部そろえよ。