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批評や分析ではなく個人の感想だよ

マロニエ王国と七人の騎士42話「夢の続き」感想

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 唐突に出てきた浮遊するリュウグウノツカイの正体、女中のサンナだったよ!夢から覚めてうちひしがれるウィジャヤに、寄り添うサンナ。

 場面かわり、世界樹の倒木の上に立つハラペコと冥府様。
 「全部私のせいです 私があの日とどめをさしておけば…」
 御神様、月様、そしてハラペコを巻き込んでしまった懺悔を告白する冥府様。
 「僕は昔何があったかなんて興味ないけど 家族や友達のことは大事にしたいから」「同じ立場だったら僕も同じことをしたよ 冥府様もお姉ちゃんたちから いつも一番大きいお菓子もらってたんでしょ」
 いわれてみれば、二人とも甘やかされて育った末っ子属性でした!
冥府様はジャガー王討伐をもって御上様の救済をはかろうとしていたわけですが、そこに至るまでに被害を受けているハラペコが、冥府様の家族や友人を想う部分に協調を示して労わるのは、性格が出ていてよかったところ。

 月様もログインし、ムハヤットの自責を否定。
 「世界樹よお願いします 姉上を助けるために力を貸してください」
 「もちろん」
 ハラペコは微笑み、彼が手をかざすと世界樹の力により国は修復。

 場面は過去に戻り、生き物の国の王家の墓。大広間にてジャガー王の像を建築している場面。隻眼で傷だらけのジャガー王が、なかなかショッキング。
 「余は生き物の国最初で最後の大王であり この国で最も恐れられ忌み嫌われ御神よりも力を持つ者」
 ジャガー王は“そういう王だった”、のではなく、“そういう王でなければならなかった”のだろうな。
 生き物の国編で語られたジャガー王の経歴に「統治が長く内外に敵がいなかった」「軍の離反がほとんどなかった」「政略結婚を積極的に活用している」ことがありますが、これらの情報から彼が最恐の大王の象徴となることによりもたらされた一時の和平があったことが推察できます。これはウィジャヤの「望み そんなのはこれ以上誰も亡くならず 戦が終わることしかなかろうが」ありきなんじゃないかな。
 あと、御上様の最期って
「神話には全く残っていませんがこの国とマロニエの歴史書を合わせると 領土と家族を失い気がふれて暴君になり引退ですよ」
 とゾーイから語られていますが、ジャガー王が「御神よりも力を持つ者」という言い方をしたのは自分をきっかけに狂ってしまったウィジャヤを慮った側面もあるのではないかなあ。ジャガー王が自らの露悪をインパクトをもって提示したからこそ、御上様の暴君具合が神話に残らなかったのでは。
 生き物の国編にてジャガー王の歴史を聞いたサムソンが
 「伝承だけ聞くと傷一つない人生ね…」
 と語るのですが、ジャガー王がそう“見せて”いることが効いてきて、これも意図的な仕込みだったのだろうなと。ここまで回収すること見込んでたのか…凄いな。

 場面かわり、かつての御神様過去編と同じ構図で目覚めるウィジャヤ。戦はもう終わっており、タラは健康に。ムハヤットとサンナは祝言をあげる予定…かつて叶わなかった夢が、そのまま、夢として処理。
 兄弟や同胞に自由だと背を押されて飛び出していくウィジャヤ。走る彼女にニャンニャンさんがお弁当を持たせるという、いい役割をもらいつつも、「多分男だな」と嫌な邪推をするあたりが、大変ニャンニャンさんです!結局、本来ハラペコが丸焼きになる予定だったお肉はどうやって作ったのか。牛と豚混ぜたのか。
 道の上でウィジャヤとジャガー王…ヨカは再開し、夜の長い国編以来のキス乱舞。ヨカ!腕が!(ONE PIECE前回左耳が聞こえなくなった描写があったので、体の左側の負傷が多いのはそのせいか。

 「カゴ職人にはなれんかったのか」
 「ああ でも大丈夫だ ウィジの声は聞こえるから」

 夢は続くよエンド。とはいえ都合のいい夢などではなく、月様や冥府様やサンナやハラペコやニャンニャンさんといった人々の意志あって夢が成立していたり、ヨカが体の部位を失っていた(ジャガー王を経たうえでヨカとして立っている)ことで、御上様を救いたい人々の共通認識のもと、長い年月と人の手をかけたことにウェイトがおかれているのがポイントというか。
このシーンにおいて重要なのって、
 「みんなも手伝ってよ 今まで自分の気持ちを御神様に押しつけてきたんだから」
 というハラペコの台詞に象徴されるように、家族や国のための犠牲となった御神様に対し周りの人々がツケをはらうことに意義があったのかなと。
 でもまあ、月様や冥府様も境遇的に十分悲惨なので御神様のための盛大な救済がおこなわれる状況にそもそもノリづらい上に、周囲の人々のツケの清算方法が夢の続き(あえて悪い言い方をすると、幻覚)への協力、というのはやはり好みではなく。そして、どちらかというと暴君化した晩年の御神様の行為の無罪化が私は気になってしまうのですが…、「悪い夢じゃ」をきっかけに御上様とっくに狂ってしまっているからしょうがないのか。あと、ここで御上様を労われるハラペコって、ホントにいい奴だな。好き(告白)

 ニャンニャンさんたちの料理は国の人々や幽霊達に振る舞われ、一方ジャスティスは、月様の憑依が外れたゾーイに付き添っていた。国王の会食はルカ先輩いるんだから俺行かなくていいだろとかぬかしてて、中管理職は大変です。ルカ先輩お休み取れたらいっぱいお酒飲んでね。
 月様は戦争捕虜で嫁がされたものの、生き物の国の方が医療発達してたから彼女の身体的にはよかったという情報がそれとなく明かされるのですけれど、やっぱ自分の場合ジャガー王×月様の政略結婚カプの方が気になるんですよね。好きな女の妹だと知りながら抱いているんだよ。興奮するよ。
 ゾーイのために不器用に肉を切り分けるジャスティは、ハラペコ編序盤、当然のようにハラペコにお菓子を切り分けてもらおうとした描写踏まえてでありましょう。甘やかされて育ったボンボンの成長であり、目の前にいる人に切り分けて食べさせてあげたいと思ったからであり。食の提供は、食べ物の豊富な国編において愛のシンボル。
 ゾーイの肩にしがみつき顔をうずめるジャスティス。宰相からエレオノーラと結婚しろと言われた際にゾーイに頼った際と同じ体位で、この場面においても甘える坊ちゃん。
 「俺さ お前がいないとなんにもできないんだ 人前で立派に振る舞えないし やべー敵が出ても立ち向かえない だから二度と俺の前からいなくなるような真似はすんな」
 「何があってもご一緒しますよ ぼっちゃんが宰相様が決めたお相手とこの国で縁談があっても奥方様とも仲良くできますし 次の次の代までお仕え」
 ここで初めてジャスティスが顔を上げ、ゾーイの顔をまっすぐに見る。
 「俺がこの国に来たのは お前と 誰も知らない遠くに来たかったんだ」
 なかなか見えにくかったジャスティス→ゾーイが明確に。主従の立場というしがらみがお互いに踏み出せない理由になっていて、これは王国に戻った後ジャスティスがどれだけ勇気を振り絞れるかが見ものだ。
 
 ハラペコ・獣使い・コレット・ルカ先輩・サムソンは、ペレグリナス(神様)に関する情報共有。物語始まるよりも先に動物たちから父親に関する情報得ていた獣使いに報連相スキルが備わっていれば、物語爆速で片付いたのではとずっと思っていたのですが、
 「急にパパが神様とか…兄弟でも言えるか…俺が一番家族に心配されてるのに…
 と自ら釈明し、確かにその通りだね!
 ハラペコはコレットを巻き込んでしまったことを改めて謝罪するものの、コレットがこの国で得た経験に後悔はなく、誘ってくれたことに感謝し、おお…なかなかいい雰囲気。しかしニャンニャンさんの料理をハラペコが褒めたことでコレットはふてくされ、脈無しからここまできたことに感動を覚えます。ふてくされたコレットに話しかけられてキョドる獣使いが、おいしい。
 コレットがハラペコを意識した決定的なシーンが「今度はちゃんと 君にとても似合うと思ったからって何か贈らせて欲しいんだ」だと思っているので、国に戻って二人の距離はもっともっと近づいていくんだろうなあ。ウィジャヤの話が過去の清算なのに対して、ハラペコ×コレットや先ほどのジャスティス×ゾーイの物語は未来に続いていくのですよね。
 この帰結は素敵とはいえ……髪飾り買いに行くコレットと異形の怪物が見たいよ~~~城下町で会ったハラペコとジャスティスの会話がやわらかいものになってて驚く暑がりやが見たいよ~~~ゾーイと一緒になることを両親に伝えるジャスティスが見たいよ~~~この子たちのその先を、もっともっと見せてほしい。

 こうして、長かった食べ物の豊富な国編も終了。
 何度も言っていますが、ハラペコは本当に好きな主人公になりました。一歩踏み出せないコレットの背中をそれとなく押してあげたり、光を嫌がるヒンヤリに葉っぱの傘を手渡したりすることが出来たりと、人の心の柔らかい部分を汲み取ることができる、強くて優しい少年。
 またそのコミュニケーション能力の高さの根本に、異形の怪物という裏の顔を抱えているがゆえ、可愛くなければ・愛されなければ生きていけない強迫観念をもっているという理由付けがなされたのは納得でありました。そんな彼が救いを得るのは、想い人コレットの言葉や行動はあくまで起点にすぎず、打算で積み上げてきた周囲の関係性ありきだった着地はとても好き。ハラペコ主体の物語としては38話39話がクライマックスだったかなと思う。
 そんなハラペコの境遇を理解し、彼の美しさに少しひけめもありつつも、彼が「いい奴」だということを知っているから手を差し伸べたいコレットも格好良いヒロインでした。第二の主人公ジャスティスとその専用ヒロインゾーイの描写も説得力がありよかったです。あと、ハラペコとジャスティスの少年同士の友情は、マロニエ王国という作品の中に今まであまりない要素だったので嬉しかったところ。異形のハラペコにすぐに気づくジャスティスは大変良いシーンでした。この二人ももうちょい、ラストに描写が欲しかった。
 ハラペコ・コレットジャスティス・ゾーイにはなんとなくジュブナイルものの趣があり、そこを面白く読んでいたため、ウィジャヤのお話はやっぱりノリづらかった(というか夢とか幻覚とか死後成就によるエンドが個人的に苦手)というのが正直なところなのですが、生き物の国編から丁寧にまかれていた伏線自体は巧みで、よくもまあこれだけ壮大な話をまとめ上げたと思います。まあ、やはり過去編にあまり思い入れはないのだけれど。

 ナレースワンさんの口から次のエピソードである好色の国の情報が。
「交易で成功した商業国家で皆はもう貨幣を辛抱しているので 神が去った国と言われています」
 伴侶を求めて女性をナンパするアブドラさんのコマが間に差し込まれるのですが、ニャンニャンさんにヒンヤリが見えたのにアブドラさんには見えなかったのはそのせいか。

 マロニエ王国内に場面変わり、博愛、久々の登場。
 「ねえヒューゴ 好色の国へ行く騎士長補佐は君がやってくれないか 好色の国はお酒がとてもおいしいし街がとてもきれいなんだって 君もきっと気にいると思うんだ ただマロニエより日差しが強いそうだから君にはまぶし過ぎるかな 信心深い君が神様の国に行くなんて面白いだろ」
 「それ 君は本気で言ってるのか」
 さ、宰相!!
 「本気だよ 僕は前から君とパパの話をしてみたかったんだ」
 微笑む博愛。
 いやーーーやられた。ここでこの組み合わせを持ってくるとは。

 ペレグリナスの力を7か国に返却し、見返りとして不可侵条約を強化する約束に噛んでいる、現時点の黒幕的存在が宰相ではありますが、
 「どの国にも誰にでも平等であるべきでは?大きな力がたった一人の誰かのものであるべきではないのでは?」
 という身勝手ではない独白が入ったり、
 「あの人は信心深く共や女性に優しい理想的な騎士であり 王都の拡張計画にしてもスポンサーの貴族の意見ばかりじゃなくまともな学者の考えを重んじる頭のいい方です。」
 と、家族を愛し後輩を可愛がる人格者として描写されているルカ先輩からフォローが入ったりと、単純な悪ではなく、なんらかの理由あって暗躍している人だとは思っているので、ここで突っ込んでくれるのは非常に嬉しい。しかも、色々と範囲広すぎる(寒がりや談)博愛の立場から!
 博愛が「ヒューゴ」呼びしてたり、やたら「君」呼びしてたり、語りかけがやたらリーベじみているのですが、まさか、好色の国編のヒロイン枠って、宰相なのか!?
 ゴリラ系ヒロイン・インコ系ヒロイン・三枚目系ヒロイン・性別無し系ヒロイン・性別不詳系ヒロインときて、おじさん系ヒロインが来るのか!?少女漫画として攻めすぎだと思うが、どうなのか!?
 食べ物の豊富な国編クライマックスの記憶が吹き飛びました。これは次章面白くなりそう。