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批評や分析ではなく個人の感想だよ

ファンタジックチルドレン 感想

 いやー、凄かった。
 前回感想でもちょっと触れましたが、前半の謎に謎を重ねていく展開は入り込みづらかったし、主体性ゼロのヒロインも腹立つし、アニメーションエンタメとしていかがなものかと思ったのですが、その溜めの期間をきちんと活かし、後半グンと跳ねました。
 非常によく練られた構成や世界観設定、人間たちの嫉妬・羨望・愛憎を丹念に書いていくシナリオの出来には目を見張るものがありましたが、それをさらに高い次元に引き上げる演出が素晴らしかった。通して絵がぬるぬる動いてましたし、印象に残る止めの絵も抜群に巧い。映像面は今作を語る上で外せない強みになりました。
 特に24話は神がかったクオリティ。傑作回。

 セスに肩入れしていたので、最終話エピローグのリア充に殺意が芽生えましたが、ちょっと時間をおいて考えてみて、あれでよかったのだと思うようになりました。
 というのも、今作のテーマが「贖罪」なので。
 それを一番鋭利に体現しているキャラクターが、セス。『長年思っていたティナにソランの声は届いたのに、自分の声は届かなかった』ことをきっかけに狂い、友の殺害という罪を背負うことに。
 トーマに転生後も、前世からの罪を引き継ぎ自死を選ぼうとしたところ、同じく自死を選ぼうとするヘルガによって止められる。自死自死ぶつけるのやべーんですけど、ここにおいて重要なのは、死そのものではなく、かつてセスの声も届かず目にも留めなかったティナが、懺悔から死にゆくセスに
 「あなたが死ぬと言うのなら、わたしも死にます」
 を返していること。
 セスに対してソラン×ティナがした略奪愛って普通にむごくて、セスが狂わざるを得なかったのは2人の責任でもあり、加えて、ティナは転生の中で献身する男たちを間接的に殺しており、同じ罪を何度も繰り返してきていた、とも言えます。
 ティナ〜ヘルガに至るまで彼女が犯してきた罪の象徴が、最終話の『セスの自殺』であり、それに対してヘルガは責任を取る必要があった。
 だから、かつて受けた献身に、今度はヘルガが献身を返している。
 その献身は、セスが彼女に宛てたような恋愛感情由来ではないかもしれないけれど、かつて、思い人に声が届かず絶望したセスが、自分が与えたものと同じものを思い人からお返ししてもらう。
 道中転生の中で献身死していく男たちを指し、ヘルガから「みんな私のために…」というセリフがありましたが、それに対する答えがセスの
 「ティナ、君は、僕のために…僕の…ために…」
 だったのかなと思うところです。
 この瞬間、トーマ(セス)は救われ、ヘルガ(ティナ)をふっきれており、ゆえにラスト、
 
 「きっとソランに会えるよ。俺に…セスに会えたのがその証だ。きっと会いにくる。あいつはそういう奴だ。」
 
 と、かつて愛した女と憎んだ友人のことを、万感の思いで祝福することができる。ファンタジックチルドレンの絶頂は、エピローグではなく、ここなのだと思っています。
 また、今作が自分の好みと合致したのが、過去の罪に向き合ったあとに、『生きること』を償いに据え、序盤丁寧に描かれた日常への回帰に着地したこと。
 本編中の言葉を借りるならば、「死んでも償いにはならない。トーマとして生きて周りの人を幸せにするの。それが本当の償い。」でしょうか。
 トーマは家に帰り、ヘルガも施設に帰ることでこれを実現していくことになりますが、この解を補強する上で、べフォールの子供たちの存在が巧く噛み合ったなと。
 子供たちは、ティナを救う目的のもと、自覚的に転生を繰り返してきた人たちなのですが、それはつまり大義名分のもと自分を殺し続けてきたといえ、彼らも人殺しの罪人であります。
 その贖いとして、それぞれが家に帰り、一度きりの最後の人生を送ることになりますが、子供たちの家族が現世への執着として繰り返し書かれてきたことは、ラストの選択に説得力が出ました(タルラントはちょっと手がまわり切りませんでしたが…)パルザとメルも、早々にチームを外れることで同じ答えを出したわけですし。
 唯一事故死したヒースマに関しても、最後の瞬間『死にゆく自分』を認識することで、ギリシアの自分ではない『今の生』に縋ろうとしている。それはつまり、ヒースマが今を生きたということなのでしょう。
 で、『閻魔』。
 子供たちの前世の記憶を奪う壁として立ちはだかってきた『閻魔』が、終盤『摂理に反し転生を繰り返す者を正しい流れに引き戻す存在』なのではという解釈がアギより出てきましたが、明確な正義や悪は存在しない今作において、あえて悪を定義するとしたら、それは、人殺しでも横恋慕でも嫉妬でも憎悪でもなく、「今の人生を放棄する」ことなのかなと。
 そういうわけで、閻魔は本作における根っこのところを描いていたなとは、思うところです。
 
 あとは、思いつくままにキャラ別の感想を

●自称愚劣主人公 トーマ(セス)
 前回の感想の結びに、「トーマがどういう道を進むのか一番わからない」と書いたのですが、まさか、『明るく前向きでサッパリした気性の少年』という主人公にはよくあるタイプに、『幼馴染への初恋と親友への嫉妬をこじらせた人殺し』という側面が与えられるとは、誰が想像したでしょうか。
 上で述べた通り、今作のテーマである「贖罪」を象徴するキャラクターなのですが、それを描く上でセスに与えられたきっかけが、「運命に敗北する幼馴染」
 こういう要素自体は好きなんですけど、肝心の運命カプ(ソラン×ティナ)の描写が、以下。

婚約者の友人の一兵卒にコロっと落ちるティナ
・振った男に無邪気に抱きつくティナ(そして、『コラコラ、抱きつく相手が違うだろ』と微笑み返すセス)(聖人)
・親友の婚約者とわかっていて婚約者の頭を撫でるソラン

 …最低では。
 例えば、国王から「ティナの婿にセスをと考えているんじゃー」という提案が出ている状態とか、セスがかなわない片思いをしているとか、その程度の進展レベルだったら全然許せるんですけど、そうじゃないので。結婚秒読み両家納得済みで、突然出てきた一兵卒(幼い頃一度会っているとはいえ、一度だけ)とお姫様が恋愛してるので。
 『運命の相手』というマジックワードの下に背負っていた責務や立場や人間関係を一旦放棄するキャラクターが個人的に超苦手なのもあるんですけど、それを抜きにしても、ソラン×ティナに関してはこの、感じの悪さ。そして、2人を祝福するセスの超いい奴っぷり。
 最初は、善玉サイドの恋愛なのにどうしてこんな嫌な描写するのか不思議だったんですけど、セスを18話で徹底的に曇らせる(そして視聴者にセスに共感してもらう)意図的な描写だったと判明し、鬼じゃ。
 セスの鷹揚さとは、彼の本来の優しさとかティナへの愛情とかソランへの友情はもちろんあると思うのですが、その他にも、『ティナの幼馴染として一番長く、近くで、彼女を守ってきた自負心』はあったのではないかな。心のどこかで、彼女の一番の男は自分だと思っていたのかも。
 それゆえ、暴走するティナにセスの言葉は届かず、ソランの言葉は届いたことで、彼女の一番の男は自分ではなかった事実を痛感し、それまでの鷹揚さと打って変わった嫉妬と羨望と憎悪が露出するのが、納得だし、非道いスタッフです。
 欠損絶望顔やティナとの幼馴染思い出ラブラブムービーに長尺を取る演出も、辛すぎて逆に笑ってしまいました。…セスは小さい頃ティナにほっぺにチューされたこと一生覚えててたまに思い出してニヤニヤしてたと思うけど、ティナは婚約期間中でも一瞬たりとも思い出すことはなかったと思う。
 そして友人殺害に踏み切ることに。24話セスの拳銃を握る手の震えの作画は圧巻でしたし、アギにすがりつくトーマ役皆川純子の絶叫も鳥肌が立ちました。
 皆川純子は、25話の「ティナ…………ヘルガ……ヘルガ…!」という台詞だけで、過去の後悔の慟哭→今の大切な人がよぎる→現在に意識を戻す、という感情の変化を表現していたのも素晴らしかった。終盤にかけての演技面の作品貢献度No.1。
 なんか、主人公というより、サブキャラとかライバルキャラクター枠として愛着を持っている。実家継いで幸せに暮らして欲しい。

●出会う男狂わせガール ヘルガ(ティナ)
 全ての転生先で愛してくる男を自滅に導くファムファタールぶり。一方で、メンタリティは普通の女子なので、大体自身も不幸になっている、美貌の暴走を制御できない女。
 ヘルガが、あれこれ手を回してくれるトーマとまともにコミュニケーションが取れるまで6話かかる(施設育ちの環境や前世の影響思えばしょうがないのも理解できますが、なにぶん初見時はそのへんの事情がわからないので)ことや、ギリシア編のソラン×ティナのアレさもあり、序盤〜中盤かなり印象悪かったのですが、ギリシア編終了後〜ラストにかけて、これまでのティナ系列の人格を背負い、人間性が急成長。人生4周目みたいなものなので、達観するのもわかる。
 ティナに戻ることを拒否するヘルガの「私の今ここにある魂はもうティナ1人だけのものじゃない」は、その後のヘルガの基本スタンスになると同時に、アギに、踏み台のような自分の人生に関して、「自分で自分を殺してきた」自覚もさせることに。
 このジャンプアップを背骨に、セスとデュマ相手にもパーフェクトコミュニケーションを連発。
 二人とも間違いなく彼女でなければ救えなかったですし、こじれた男どもの導き手として本領を発揮することで、自己中な側面もあった序盤〜中盤のアクションにきちんと責任をとってくれたのは、良い仕事ぶりでありました。
 ケアラーに徹するだけではなく、最後自分の幸せをちゃんと掴み取ったのも、良かったと思う。まあ、あのカップルへの好感度、低いんですけど…

●見た目は子供頭脳は大人 べフォールの子供たち
 彼らについてはテーマと合わせて大体言いたいことは書いたのですが、…王室研究室立ち聞きされすぎでは。機密ガバガバ。
 ティナの秘密がデュマ父とセス父に露呈したの、立ち聞きされたからですし、ティナ転生のやりとりもセスに聞かれてるし、同じ過ち3度も繰り返してます。開けたドアはきちんと閉めよう(小学生)
 ロマンチスト科学者ハスモダイのヘッセ朗読が作品の雰囲気作りに一味買っており、急に詩を誦んずるのも繊細な性格踏まえて適任だし、澄んだ少年の声帯も巧くハマっていて、よかったです。
 また、詠まれる詩が「どこかに」から、ラスト「フィエーゾレ」に変化しているのは、子供たちやティナやセスが探していた「おまえの岸べ」が、「どこか夢のように遠い憩いの場」でも「名も知れぬ遠いかなた、平和と星の国」でもなく、「この南国の近く」であると気づけたからでしょう。
 あと、メル!ゲルダがルーゲン博物館に通い詰めるシーンで、やっとゲルダ=メルに気付きビックリだったのですが、メルが記憶を失ったタイミングの違いさえもちゃんと理屈が通り、改めて構成が良くできています。
 物語の始まりの、戻りたくないパルザに詰め寄るメル→母親に泣き縋るパルザを見て瞳が揺らぐ子供たち→パルザではなくルーゲンに別れを告げるメル、は、初めて見た時はなにこれだったのですが、意図がわかると、これをあえて最初のシーンに持ってきたスタッフが邪悪すぎます。
 彼氏と別れた上に拷問されて転生後も苦しむメルはあんまりではと思ったのですが、そういう不憫な背景を持つ彼女だからこそ、記憶がないルーゲンとの1日だけのデートとか、石に描かれている寄り添い合う星座に気付くことができたのは、もの悲しくも、美しい着地でありました。
 そんなメルに穏やかに接していたソルトは、後半にかけて他者を労る柔らかい部分が前面に出ることで、理性強めクールナンバー2ポジションとのギャップが冴えて、かわいかったです。この世界において、ぶっちぎりで性格いい女だと思う。

●血縁ない年下の姉に情念を燃やす弟 デュマ
 兄への復讐心に燃える父親に、利用されるために生まれてきた道具。作中でも少し言及がありましたが、国王から愛され蘇生させられたティナとは、父親を起点として鏡写しのような存在でありました。
 生まれた時から彼はどこにも居場所がなく、その上、ティナ連れ戻し計画後は肉体改造によってギリシアに戻ることもできなくなり、孤独が加速していくことに。
 そんな彼が唯一、居場所を見出せた対象が、幼い頃抱きしめてくれた母親。そして母親を失ってしまった後、女性の肉親であるティナに母親を投影することで、再び居場所を求めているのが、デュマというキャラクター。
 つまり、マザコンであり、シスコンである。
 そんなデュマは当初ヘルガを指して「みずぼらしい」と語り、あくまで『姉の魂の一時的な器』と思っていたのでしょうが、こうならざるを得なかった彼の背景を知り復讐心を哀れんで抱き締めたヘルガの腕が、デュマの求めたものと重なり、彼にとって姉とヘルガが同一の存在になる。
 ヘルガがデュマを抱きしめる力強さによるマントの皺、膝から崩れ落ちるデュマの重心の移動、倒れ込んだヘルガの胸、その胸に子供のように顔を埋めるデュマ、一連のシーンがメチャクチャエロくて、正直、一番興奮する組み合わせってここです…。
 そして、ヘルガは姉であるからこそ、長年の願いであった姉を取り戻すことが出来ないというのが、デュマは切ないなあ。「この日をずっと夢見てきたのに、なぜこんなにも苦しいんだ…」
 メルへの所業は鬼畜でしたが、デュマは環境の悲惨さがぶっちぎりなので、物語の因果応報を考えたときに、自殺が仄めかされるあの最後はちょっとやりすぎでは。トーマ達がたどり着いた「生きて償え」ともズレますし。描写としてはかなりマイルドだったのは、制作陣もその辺の意識があったりしたのでしょうか。
 セスと並んで思い入れがあるキャラですが、今作観た人、大体セスかデュマに肩入れしてしまうと思う(悲惨なので)

●好きな女のタトゥー腕に彫っちゃう系 ソラン
 ヘルガ・ティナがヒロイン力に覚醒して諸々の責任をきっちり取り、最終的にだいぶイメージアップしたのに対して、最後の最後まで、ソラン、まじソラン。
 エピローグとか、トーマ・セスがこんな大変な思いしたのに、ポッと出のお前がヘルガの顔を赤らめさせやがってという憎しみが消えません。いや、ソランもティナと同じように転生するたびに無自覚に操立てしてたのかもしれませんが、描写はないし。そもそも横恋慕始まりだしね(一生言う)
 トーマはヘルガのこと完全に吹っ切れてますが、それはそうと、ソランはムカつきます。
 転生後も左腕にティナの名前残ってるの、彼女の名前タトゥーで入れてるDQNみたいで引く。このカップル、本当に私と波長が合わなかった…


 

www.ghibli.jp

 ヘルガ、大体これ。

gekkansunday.net


 同じく輪廻転生を扱った傑作。
 業や因果が鬼構成力で練られた壮大な物語…なのに全く関係なく人生かけてラブコメしてる、ファンチルと対照的なまんが。10巻以内で完結してて手を出しやすいし超オススメです。

 というか、今作の価値観って仏教がベースにあんだなと今更…「閻魔」ってまんまだし。

 神絵師のファンアート一枚絵が素晴らしく、それきっかけにファンチル視聴したのですが、前情報ほぼゼロで完走でき、幸せでした。視聴中ネタバレ配慮してくださった方々も、ありがとうございました。