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批評や分析ではなく個人の感想だよ

ウソゴクざっくり感想⑤(ネクスト編)

17〜21巻

17巻
ネクスト編開幕。表紙がギラギラしておる。
・飯音くん舌抜き後に弾幕お仕置きで追い討ちかける地獄王が、陰湿で笑えます。
・番崎くん3人の友情に自分たちを重ね、恵比寿くんに喝を入れるゆめちゃんの友達想い描写が細やか。
・梶野がダークサイド堕ちする前にきちんと助言するゴクオーくんに、3バカへの愛情を感じる。
・時目さん裏の顔含めて魅力的だから、この芸風でやっていけばいいよ。
・天子ちゃんの短冊「これからも楽しい思い出がたくさんできますように」は14巻の「走るぞ、天子ちゃん!止まるなよ。」を受けての強さでしょうか。
・外敵追い詰め役:ユーリィ、人間守る役:ゴクオー、で即分担するのが、お互いの能力に対する高い信頼を感じて格好良い。
・ウソゴクにおいて、閻魔大王にも罰を与える最高位の存在として描かれている『神』を匂わす、GODを名乗る少年が登場。口調がルー大柴だ!
・ユーリィ編クライマックスで触れられた程度の「キセキ」そのまま武器にしており、既存の要素を使いつぶしていく姿勢は好感が持てます。
・ユーリィって一貫してゴクオーくんの対比として描かれていて、登場から今まで一切能力的に格落ちしないのが本当に素晴らしいライバルキャラなのですが、そのユーリィが手も足も出ず新キャラに敗北。封印されてヒロイン力が急上昇。
・ユーリィといいネクストといい、天国サイドは喜びの感情出力の方向性がアッパー系だな…
・「奇跡のネクスト!神に愛されし、神にもっとも近い…、神の後継者だ!」「今回、オレはオマエに、『究極の嘘』を見せるため、来てやったのさ。」
ネクスト襲来はナナシノ編でゴクオーくんがおかした罰を与えることを建前にしており、長編のつなぎが丁寧。
・「…虫ケラ?」「人間のコトだよ。悪いが、オレはアイツらのことはなんとも思ってない。オレはね、神になったらオマエを1番の部下として側に置きたいんだよ。だからさ、そんなオマエをできれば、あの、虫ケラといっしょにさせたくはないの!」
・長編敵キャラの人間に対する初期スタンスについては、現時点では以下のように差別化


ユーリィ:元々善なのに悪に染まってかわいそう。救いたい。
サタン:シンプルに悪。嫌い。
ナナシノ:愚かだと教育されてきた。あれにはなりたくない。
ネクスト:無関心。羽虫レベル。

・また、ゴクオー君に対しての感情は初期状態で以下のような形。

ユーリィ:嫌悪感あるが能力的には認めている。目的(天子ちゃん)のためには邪魔。実力ほぼ同格。表裏一体の似た者同士。
サタン:敬意や好意ゆえの執着が強いが無自覚。今の立場を引きずり下ろして代わりたい。素の能力的には格下。
ナナシノ:親代わりの愛情が裏切りにより憎悪に変容。サタンと違って自覚あり。戦闘スタイルは精神乗っ取り系なので強さのステージ違い。
ネクスト:能力を高く評価、将来部下にしたい。格上。

・ゴクオーくんババ抜き完全敗北。同じ土俵で勝負すらしていなかったネクストの一枚上手っぷりはインパクトあって、シビれます。

18巻
・八方美人で上部うまく取り繕って、自分も他人も無自覚に傷つけている茶刈くんがグサグサ刺さる。現代社会で生きていく上ではやっぱある程度必要なスキルですし…
・作者の次回作となるカシバトルが、作中漫画として登場。
・夏仕様のワイシャツ+サスペンダーの千十郎がかわいらしい。GODだ。
・顔しか描けない後垣くんに全身を描くよう要求するゴクオーくん、鬼じゃ。あんたは(絵を描くオタク目線)
・田塁くんが描いた漫画人に見て欲しい欲はありつつ、描いてるのバレるのは恥ずかしいとか、漫画描く人あるあるがリアル。
・別に悪いことしたわけじゃない赤花くんを、わざわざ尾行して本心をさぐるゴクオーくん、やはり性格悪。
・「早くふいて!体冷やすとカゼひいちゃうよ!」「コイツはオレが人間じゃないと知っているハズだが…。」
・ヒゲメガネの仮装しながらマジック披露するネクスト、目的のためにピエロってて偉いよ…
・「オレはね…、クリスマス会など、どうでもいい。お菓子もツリーも、どうでもいい。ましてや人間のことなどなおさらどうでもいい。」「?なにを怒っている、ゴクオー?オレはオマエの大好きなウソでオマエの大好きな人間どもを喜ばせたんだぞ?なにが悪い?」
・番崎くんの拳を受け止め、ツリーを持参するネクストの善行が書かれた後に、この台詞を言わせるのが巧いなあ。


19巻
・「こうじゃねーだろ、オレっちのウソ暴きはよー!たんたんとただ真実を説明するだけなんてツマラネーだろー!」…ギリギリの人間が大好きだから、ゴクオーくんは。
・ウソつけないゴクオーくんは余裕がないせいか普段よりオーバーリアクション気味。
・「サタンさんなら、助けてくれるかもしれません!」ここで、小野天子からこの選択肢が飛び出てくる。
・「ウソをつかないでください!サタンさんもゴクオーくんのこと大切に思っているはずです!だって。」バレバレだ。
・「初代はテメェのかってで現世をフラついていた…。テメェ自ら掟を破り、そして罰を受けた…。自業自得!どう理由があろうと初代もわかっていたハズ!甘くはねェ!すべてはテメェの責任!」「それが地獄王、閻魔大王というモノだ!助ける理由などは…、ない!」
・天子ちゃんもサタンも、『ゴクオーくんが好きで、守りたい』人だったのですが、天子ちゃんが守りたいのは“友達のゴクオーくん”で、サタンが守りたいのは“閻魔大王としての初代”だったのですよね。だから、サタンとしてはたとえゴクオーくんが罰で傷ついたとしても、それが正当な処罰であるのならば放置、というのは、納得の理屈。
・「わたしだって…今度こそ…、今度こそサタンさんと仲良く出来ると…。また八百小でゴクオーくんやみんなと…。」「だから気にくわねェんだよ!」「相変わらずオマエはキレェごと並べて自分のことばかりだなァ…!」
・「…わたしは仲良くなりたいのに…。」「今は初代を助けたいだけだろ?」「ゴクオーくんも助けてほしいのに…!」「オレサマと仲良くしてぇだの能書きたれやがって…。」「サタンさんなんて…、」「キサマのそういうところが…!」「「大嫌いだ!」」
・最高。
・前巻予告でサタンの再登場が示唆された時、サタンが天子ちゃんのエンジェルっぷりにほだされて軟化してモンペ化とかしたら本ッッッ当に嫌だった(サタン編で積み上げた2人の関係性に対して不誠実になってしまう)ので、期待半分不安半分でページをめくった記憶があるのですが、嫌悪感の再確認に行き着くというサタン編の補強のような方向性で、凄く嬉しかったです。あと、聖人君子ヒーロー兼ヒロイン小野天子の中に渦巻く負の感情を、ねっとりとした筆致で書いてくれたのもよかった。天子ちゃんがこういう対応を取る相手って、サタンだけなので。
ネクストにアッパー入れるサタンの、この、力強い絵。サタン編のユーリィ再登場も大変盛り上がりましたが、あちらがちょっと気取ったスマートな格好良さだったのに対し、サタンは野蛮な格好良さ。
・サタンの肩書き、「悪魔王」なんだ。2代目候補とかじゃないんだ。
・「もともとキラってた同士のアンタらなら、『キライ』で心を一つにするのがもっとも扉をあける近道だった。」なにその、彼女と愛人のキャットファイトで絆深めさせるみたいな荒技。鬼?
・「それでもわたし、サタンさんと仲良くなりたい!だからっ…」「フハハ。キライで結構。安心しな、小野天子。」「オレサマもキサマが大っ嫌いだ。」「…。おかえりなさい…!」
・やはり、天子ちゃんとサタンのライバル関係は良い。「好き」の反対は「嫌い」ではなく「無関心」とはよく言いますが、「嫌い」というマイナス感情さえも肯定しているのは、善悪ひっくるめた人の営みを肯定する今作らしいところ。
・あと、「嫌い」をサタンが再度強調したの、ゴクオーくんのキャットファイト計画の真意に気づかず強い言葉を使ってしまい、罪悪感をおぼえる天子ちゃんへ、サタンなりの気遣いだと思います。
ネクスト、ルシファーの後釜だった。ルシファーが神に挑んだ時そのまま勝ってたら、ルシファー神がラスボスになってたのかもしれないのか。
・「ゴクオー…サタン…、ウリエル…。なぜ、みなそんなに人間を愛す…?憎む…?とくにそこのーオマエ…。オノ・テンコだっけ?」「さんざん人間を虫ケラだ・愚かだ・興味がないと言っておきながら、今…、天子ちゃんを『名』で呼んだろ?その時点でおまえは…、人に興味があるんだよ。ウソついてんじゃねェぞ?
ネクストの心のさらに奥にある人間への好意を見抜けず、追い詰められるゴクオーくんは、サタンの本音、ナナシノの愛、クラスメイトの誕生祝いを見抜けなかったことを思い起こさせます。やはりゴクオーくんは、「悪意」と比較して「好意」を見抜くのは不得手なのでは。これは人間の醜いウソを暴くのが長年の業務だったからというのは大きそう。
・「チョチョイと片付けっからまたいっしょに学校行こーぜ!」「楽しかったぜ!」「なんだ…。なんなのだ、キサマ…!小野天子に見抜かれるほどの…、後先を考えない…、そのブザマなウソはッ…!」
・「見そこなったぞ、初代ィィィ!」「ネクスト!キサマが気にくわんからすべて正直に言ってやる!オレサマはイヤだったのさ!初代がこんなことでいなくなっちまうのがなァ!オレサマは見たくなかったのだ!小野天子がシケたツラをするのがなァ!」
・サタン編は、サタン自身も知らなかった本心「ゴクオーくんのため」を、天子ちゃんの導きで知る話なのですが、本当の気持ちを自分でちゃんと自覚し、それを言葉にできるようになっているサタンの変化がわかります。孤地獄で今までの人との縁を振り返った結果なのでしょう。
・また、ゴクオーくんだけではなく、ゴクオーくんを想う天子ちゃんも、侵されてほしくない存在になっているのが、おいしい。
・天国側住人だったサタンがもともと所持していたキセキの力が土壇場で覚醒するのが巧妙。
・87話88話、個人的なツボに入りまくり、好き過ぎて、この回読むたびアドレナリンが大量に生成されます。
・お母さんが買ったパチモンの鉛筆に名前つけて大事にしてる天子ちゃん、できたお嬢さんだなあ…
・そしてその天子ちゃんの鉛筆に込められた想いや、革付くんに反発できる強さをくみ取り、彼女の善性を守ろうとするゴクオーくんが男前すぎて、キュンキュンする…
・天子ちゃん模したアバター(ファインティングテンコ)使うゴクオーくんと、それに照れてる天子ちゃんは、もうそういうプレイだろ。

20巻
ネクストが進藤ヒカルヘアにイメチェンの上、記憶喪失になって再登場。命名「ネク助」(ゴクオーくんが一秒で決定)表情があどけなく、かわいらしい。
・「ス…、スゴイ!ウソをまたたく間に暴いて…。何者なんですか、ゴクオーくんは?」「「ウソツキヤロー。」」
・「自分のやってきたことが認められたいって気持ちはみんな持っているハズ!」記憶喪失という無意識下の状況でも、『自分の軌跡の振り返り』と『他者からの承認』への欲求がネク助から出ているのは、意図的なものでしょう。残酷。
・「ネクストを記憶のないまま神に返したとしても、アイツはいつか記憶をもどし、また悪さをするだろう。だったら、このまま人間として生活をさせ、人を知ってもらう。悪さなんてしようと思わないくらいにな。」
・まさかのネクスト再教育計画始動。ゴクオーくんの荒療治にふてくされつつ乗っかるサタンに、初代の器量に対する信頼を感じます。
・千十郎(刑事志望)が言葉を選びながら、カバンの中身取り調べを周囲に提案するのがいい描写。
・ゴクオーくん名古屋置き去りを聞いた瞬間に魂が抜ける皆見先生の胃が心配です。そしてこの引率の苦労が次の回への布石になるという。
・6-2のキャラクターを大体抑えたタイミングで協力ウソ暴き、そのチームワークがクラスの一員となったネク助の強烈な『思い出』になっていく。よくできた構成です。
・ウソツキ!ゴクオーくんの世界に「エッチな写真」という概念あるんだ。
・「ヘーキだよ。嫌われるのは、ウソツキの宿命ってね!」に悲しい表情をする天子ちゃん。ナナシノ編を起点とし、ゴクオーくんに対しての感情に『みんなにわかってほしい』が積極的に盛り込まれます。あと、本人はマジで気にしてないと思う。
・ゴクオーくん超気遣いできるスマートな男前ですが、それはそれとして、普通にやり方が性格悪かったり陰湿だったりするので、磨巾くんみたいなアンチ…湧くでしょうね!
・「ゴクオーくんなら、…だいじょうぶ!ぜんぜん心配いらないよ!」「小野さん…、なぜキミは、そんなにゴクオーくんを信じられるんですか…?」愛です。
・「ウソを暴きたいだけ」なゴクオーくんを理解することで、反発する心は変わらないまま、プライドや復讐心を捨て一皮むける磨巾くん。『自らの無実を証明するために行動する磨巾』を尊重するゴクオーくん。そんなゴクオーくんのスタイルを信じるため自分に「大丈夫」と言い聞かせる天子ちゃん。3要素全てがネク助の人間への目線の変化に集約される。キャラの連動がお見事で、96話良作回。

21巻
・表紙格好良い。
・「この写真を見るたびに思えるんですよ。みんなに会えて、八百小に来てよかったって…!オレは…、人間(みんな)のことが…、大好きになりました!」
・ネク助、丁寧語の天然純粋キャラで一人称「オレ」なのいいな。
・「なにも…、中身が…ない…?そうだ…。オレはなにも…、思い出せてない…。それなのに気楽に…、毎日を楽しんで…、中身が…ない。でも…、でも…、なんでこんなクズのような人間に…、そんなことを言われなきゃならない!」
・「そんなことない!」「中身がないなんてコト絶対ない!ネク助くんはわたしたちの友だちだよ!」小野天子は格好良いなあ…
・「あそこでキレてしまったら…、なにか、『今の自分』が消えてしまうと思ったんです。オレはまだみんなといたい。だから…、オレであるためにガマンしました!」
・普段温厚だが実は神の力を宿しており、本人はそのことに無自覚って、ネク助は主人公みたいな背景だなあ。
・この直後に記憶戻るの急展開すぎるよー。ヘンに引っ張らなかったのはよかったです。
・「オレ、記憶がもどったんだ。」ジョジョみたいな正体の明かし方だな。
・写真ーーーーーーーーー!!
・「懲役100000年。オマエが生きてる間はもう、会えないよ。」
・天子ちゃんの最大の地雷『ゴクオーくんとの別離』をネクストが的確に踏み抜けたのは、磨巾回で天子ちゃんの想いを知ったことを踏まえているからこそなのが、皮肉。
・「AH~~~~♡モチロンウソだ!」超軽いのが超邪悪です。
・天子ちゃんの『ゴクオーくんへの気持ち』をもてあそんだネクストに対し、ゴクオーくんから過去最高のブチギレを観測。
・「だいじょうぶだよ。オレっちはアンタが悲しむような別れ方はもう絶対しない…!コイツはウソじゃないぜ!」「うん…!」
・なんか完全に恋愛漫画みたいなテンション。この場でキチっと誠実になれるのは、ゴクオーくんの格好良いところ。
・ゴクオーくんの口から直接(天子ちゃんとの)「別れ」が出たのって、この時が初めてなんですね。
このシーンって多分、ネクストとゴクオーくんが一緒に孤地獄落ちしそうになった88話を踏まえていると思います。以前は、永遠の別離覚悟しつつあえてお別れを言わない下手な”ウソ”「またいっしょに学校行こーぜ!」で天子ちゃんを絶望させました。しかし、今回は、いつかのお別れに”本音”で向き合い、天子ちゃんを安心させている。天子ちゃんの人生のトラップになっていた「別離」の意味を、ゴクオーくんがちゃんと更新してるのが素晴らしい。

・「まさか!究極の嘘ってのは!」「時空をさかのぼり過去にもどれるチカラ!すべてをなかったコトにできるチカラだァーーー!」
・1話に時間が戻る、衝撃の展開。第99話「過去で未来を取り戻せ」タイトルもこれまた、良い。
・初見時本当にビックリしたなあ。99話時点で連載8~9年目くらいでしょーか。長期連載のこのタイミングでこういう話がガツンと飛び出てくるのが、恐ろしい漫画だよ。
・初期ゴクオーくん、顔がもちもちしててかわいい。画風もいまよりアッサリした印象
・「ぜんっぜん平気だよ!」「この…人間…、泣くほど困っているのに…、笑って、平気だと言っている…。なぜだ…?オレっちは…、このウソを知っている!」「オレっちの性根が…。うったえている!オレっちに!このウソは…、決して忘れてはならないと!」
・「オレっちは初代閻魔大王、地獄王ー…。地獄で気の遠くなるような時間の中、さまざまな人の魂を裁いてきた。それはどれも醜く…、愚かだとしか思わなかった。」
・うーん、そこから『生きている人間の嘘』を知ろうと思ったきっかけも、ここで触れてほしかったところ。
・「この…、ツヨク ヨワク ケダカイ ウソヲツク 人間ー… …お…小野…天子…!」これほどまでに小野天子という人間を端的に表す言葉はない。
・「え…、どうして…、わたしの名前を…、知ってるの?」「あ?そんなん…、わから…ねェよ…。わかんねェ…けど…、もしかしたらオレっちたち…、夫婦だったんじゃないのか?」
・ここであえて「夫婦」というウソをつくのは、ゴクオーくんから天子ちゃんへの個人的な感情を感じるところで、狂う
・「カッコ悪く…、ダサく…、冴えなく…、思い通りにならず!それでも人間は今日を生きている!この厳しくウソだらけの世の中を…、今日も生きている!」「オレっち初代閻魔大王地獄王は!今を生きる人間を尊敬する!」
・ここで助けに入るユーリィとサタンも滅茶苦茶格好良いのが、素晴らしい。
・トリプル「GODだ。」がまた、性格が悪いな~!
・99話、本当に刺さりました。神回。
・この話の二つの柱「ゴクオーくんにとって『ウソ』のブレイクスルー」「ゴクオーくんから人間への敬意」の2つ。これって別にウソゴク的には目新しいものではないんですよね。前者の、天子ちゃんとの出会いがブレイクスルーだったことは、サタン編で触れられてナナシノ編で既に深く突っ込んでいるし、後者の人間への敬意は、それこそ最初期から何度も繰り返し書かれてきたことです。
・この回が凄いのは、あの日あの瞬間小野天子が発した「全っ然平気だよ!」というウソが、ゴクオーくんにとってどれだけの衝撃だったか、1話をそのまま利用するという仕掛けを用い、強い説得力を持たせていること。
・また、小野天子を象徴として、すべての人間の営みを肯定しているゴクオーくんが、「初代地獄王閻魔大王」という役職(責任)を名乗りながら、「人間」に対して「尊敬」を力強く明言することで、積み重ねてきたものがグッと重みを増しました。作者は本当にセリフ回しのセンスがいい。
・一話再利用は素晴らしいアイディアですが、これはあくまで仕掛けにすぎず、この話の核って、『地獄王から、小野天子、ひいてはすべての人間へ贈るラブレター』だと思っています。
・「おまえは『ネク助』を自分とは別人のようにあつかっていたが…、やはり同じだったんだよ。あの写真を見て動きが止まった。それは、八百小のみんなを…、天子ちゃんを…、『想った』からだ!おまえがさんざん下に見ていた人間どもは、いつのまにかおまえの中で、とてつもなく大切な存在になっていたんだよ!」
ネクスト編の「キセキ」ってネクストが有利になる事象として扱われるわけですが、キセキが起こった結果として、ネクストが天子ちゃんの手元の写真を見てしまう(=ネク助にとって有利な事象が起きている)のが、ネクストもネク助も地続きの存在にある事実を補強していてよかったです。
・「究極の嘘を使って時をさかのぼったのも…、『わからない自分の過去を探すため』もしくは、『なにもない自分の過去を埋めたかった』ってことだろう。おまえは無意識に気づいてたんだよ。自分がからっぽだったことに。だからいろいろつめこめる人間に嫉妬して興味をもった。神になることでおまえは、自分を手に入れようとしてたんだよ。
・「じゃあ…、もう…、オレには…。本当に…、なにも…、無…。」「友だちがいるよ!わたしだって『天子』のときもあるし、『小野さん』のときもあるし、『天ちゃん』のときもある!だからっ…、ネクストくんはネク助くんだよ!ずっと…、ずっとそうだよ!」
97話の「中身がないなんてコト絶対ない!ネク助くんはわたしたちの友だちだよ!」を踏まえたうえで、天子ちゃんがジャンプアップ。

・「オマエがァ!オマエたちがオレにやさしくしてくれたからァ!だから、オレは負けてしまったんだァー!人間のクセに!人間のクセにィ!オレに情を…心なんてものをくれやがってェェ~!」
・自分がからっぽである痛みをネクストが自覚し、絶望の淵に追い込まれる。一方で、かつて天子ちゃんから差し出したタオルの意味がわからなかったネクストが、再度ハンカチを差し出したときに、それを「やさしさ」だと解釈できるようになっている。今は死ぬほどつらいだろうけど、差し出されたタオルやハンカチの意味を理解できるようになったことが、今後、彼が生きていくうえでの救いとなるのかな、と思います。
・転校お手紙オチが…サタン編とかぶっている気が!
・何もなかったネクストが、ネク助として八百小6-2という”社会”とつながることで、彼らとの思い出を拠り所にした『自分』を手に入れることができる、に着地もってきたのは、彼自身が作中積み上げてきたものを活かした形でよかったです。また、繰り返し書かれてきた”写真”の修復が、再度立て直されるであろう、ネク助と6-2の『絆』のシンボルになるのも美しい。
・こうして改めて読むと、ネクスト編はナナシノ編の対比として構成しているのかなと思いました。というのも、ナナシノもネクストも、もともとは「何もない存在」で、ゴクオーくんが名前をつけることで「自分」を獲得させる。「ゴクオーくんが他者を育てる話」なんですよね。
・もっと踏み込むと、ナナシノ編は『過去ゴクオーくんが人舐めてるせいでそれを見たナナシノも人間になることを拒否し、そんなナナシノを普通の家族が救う話』で、ネクスト編は『人間の価値わかった現在ゴクオーくんがクラスメイトの力でネク助が救われるよう導く話。』
・つまり、ゴクオーくん子育て失敗話=ナナシノ編で、成功話=ネクスト編なのでは(子育てではないだろ)ゴクオーくんの成長を感じます。この成長のきっかけも、小野天子のちっぽけなウソ。
・前回の感想読んでいただければわかるように、ナナシノ編あまり高く評価していないのですが、あれはネクスト改心させるうえではやはり絶対に必要な段階だったなと思いました。
ネクスト編、各話のアベレージが高く、改めて読み直しても大変面白かったです。特に99話はウソゴク全話中でも突出して出来がいい。繰り返し言いますが、傑作エピソード。
・ネク助育成計画をゴクオーくんが明言した時点でオチがどこに行くかなんとなく予想できちゃうので、そこからもうひと跳ね欲しかったとも思うのですが、99話を経てのクライマックスバトルは大変盛り上がりましたし、これはもう贅沢な悩みです。

・おまけ漫画ガマブクロウが、完璧な正妻ムーヴ。