マロニエ王国と七人の騎士39話「キミのほうが」感想
「ハラペコ うちの下の階に厨房があるだろ キミはお腹の中が空っぽにならなければかわいいままでいられるから ここにいたら大丈夫だよ」
ハラペコにかわいくなくちゃの呪いをかけるペレグリナスがなかなか残酷なのですが、異形化能力を所持していたはずのペレグリナスもハラペコと同様の苦悩があったはずなので、この台詞は彼の体験に基づく生存戦略+親心由来のものだったのかな、とは感じるところ。
急激な衰弱を落ち着いて受け入れていることや、バリバラ(妻)を息子達に託していたことから、成長していく息子を見守ることができないことを早期に自覚していた様子もありましたし。
そして、傾く大木。バランスを崩すコレットが抱えている食べ物の包みを手放し、ハラペコは咄嗟に、包みではなくコレットを抱きしめる。
「ごめんね せっかく作ってくれたのに でも今はもうキミのほうが 大切なんだ」
「今はもう」って、そこの自覚、今なんだ。
食べ物の国編序盤、コレットの留学の背中押した時点で、もう十分、食事<コレットだと思っていたのですが。
まあ、彼が彼女に恋心を抱くきっかけが、"食事を作って提供してくれた"という、『ハラペコの生きる手段』と密接であるがゆえ、利己的な愛と利他的な愛の分離が彼の中でできていなかった、というのはありそう。
そこの優先順位が整理されたのは、コレットを一度失ったこと、そして、コレットが「ほんとの僕」に今までと変わらずに笑いかけてくれたからでしょう。
落下していくコレットの脳内をよぎる、過去のハラペコの姿。
ハラペコの告白を受け、自らの怪物性に怯える彼を突き動かしていた勇気は誰に向けてのものなのかを、コレットは悟る。
落下するハラペコとコレットを獣使いとフラカン(命名:チビ)(国鳥を小動物扱いする獣の王)がなんとかキャッチし…網のような植物が急に湧いて地面との衝突は避けられたのですが、これはヒンヤリがハラペコのために出してくれたのか?なんか、手かざしてますし。
大木は倒れ、かくして国はめちゃくちゃになり、いけしゃあしゃあと帰ろうと地下の霊廟に向かうヒンヤリの前に現れたのは、世界樹の祭壇前で料理の準備をするニャンニャンさんと、かまどの精霊、幽霊達。
「なあ お前よかったら試食してみないか これはこのあと祭りで神様に食べてもらうのだが… 私は今 お…あなたに食べてもらいたいと思っている」
いつもの「お前」ではなく「あなた」と言い換え、ヒンヤリの「おいしい」に微笑むニャンニャンさんが、大変ヒロイン力高いです。武力の国編でヒロイン張れるよ。
「誰もいないのに また独り言ですか」
アブドゥラさんに、霊達はともかくヒンヤリが見えていないのは何故なのか。ヒンヤリの手が欠けてる描写があるので、神の力が弱体化してるとか?
っていうか、アブドゥラさんは、何故しれっといるのですか。怖。
かまどの精霊に見送られてヒンヤリは帰宅。
一方、フラカン落下地点のハラペコとコレットは、雨に打たれていた。手でコレットの傘を作り、自分はびしょ濡れになるハラペコは、性格が出ていて好きです。
「さっきコレット 僕が食べてる時しか本音でしゃべらないって だから何も食べてない今きいてほしいんだけど… 僕 うそついてて…」
「前にわたした髪飾り たくさんもらったからって言ったけど あれほんとはコレットに似合うと思ったから テレーズさんにお願いしてゆずってもらったものだったんだ」
「でも…だから…えっと…帰ったら…今度はちゃんと 君にとても似合うと思ったからって何か贈らせて欲しいんだ」
言った。
偉い。
この台詞は、もちろん34話の
「あの時 僕 ちゃんと気持ちを伝えられたらよかった…もし嫌がられても きっと絶対その方がいい…」
を踏まえての台詞ですが、回収あるとしたらラストシーンとかかなと思ってたので、再開して落ち着いた先にすぐ伝えるハラペコが立派。
過去の反省とあわせ、"君と過ごす"未来の話をしているのも素晴らしい。そして、コレットの想像する未来に、人間態のハラペコだけではなく、異形態もあたりまえのようにいるのが、泣かせます。
あと、「さっきコレット僕が食べてる時しか本音でしゃべらないって だから何も食べてない今きいてほしいんだけど」という前置きは、自分の気持ちが迷惑ならば、今から続く言葉をウソだと思ってくれてもかまわないという意味なのではないかな。
自分を取り戻すために2回も死にかけてくれた女子に対して、奥ゆかしい。
一見すると、保身に聞こえるかもしれない台詞ですが、食べ物の包みよりコレットを選んだ時点で、ハラペコは既に利己的な愛を利他的な愛が飛び越えており、コレットを純粋に想っているからこその台詞。その不器用な愛や胸が痛くなるほどの健気さは、彼女にもちゃんと伝わってきて、
「なんで…涙が出るんだろ…」
は、そのためなのではないかな、と思いました。
初読の時にコレットと同じタイミングで感動したのですが、私も感動した理由が全然わからなかったので、今必死に理由をつけています。
獣使いとジャスティス一行が落ち合い、チビフラカンの前に集合。獣使いから差し出されたりんご(猿からの供物)を食べて人間に戻るハラペコ。
「獣使いがいてなんかすごくほっとした」
に、眉が一ミリ程度下がる獣使いが、お兄ちゃんしてます。…ハラペコ、末っ子キャラに加え、空腹で異形化する爆弾持ちなのに、パーティーメンバーにエリーやサムソンみたいな強カードがいなかったので、旅路が他の章と比較してハードモードすぎる。
再開したジャスティスと冥府様の件を情報共有し、御神様の石棺から見つけた枯れた何かは2500年前の世界樹の葉から作られたものだと判明。ハラペコなら復元できるかもしれないとのこと。
御神様は瓦礫の下で行方知れず、で、つづく。
なんか、ハラペコ→コレット全然脈ないと思ってましたけど、今回読んだら今後は微粒子レベルで可能性あるような気がしてきました。
いきつく関係性がどこになるかはわかりませんが、ハラペコやっぱり健気で不憫で頑張り屋で応援したいキャラなので、どういう形であれ、彼が前向きに生きていけるような着地になってくれればと思います。