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批評や分析ではなく個人の感想だよ

マロニエ王国と七人の騎士38話「ほんとの自分」感想

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 マロニエ王国本誌で追ってるので、どうせなら感想もこっちで書こうと思い、タグ作りました。

 

 「今度は とり返さなきゃ」
 ハラペコが異形化に伴い暴走し他者を拒絶した結果、世界樹の幹が急成長。そこを登っていくコレットが、ジャックと豆の木状態。
 コレットの回想の中で、兄弟たちの異能ゆえの生きづらさが語られると同時に、異能関係なしに『ハラペコがいいやつだから助けたい』コレットの覚悟が補強。
 異能に多少思い悩む様子を見せる暑がりやを、丸い姉さんがいたわってついた嘘が、泣かせます。こういう人のやさしさを押しつけがましくない手法で描くのが本当に巧いな。
 かつて食べ物の国派遣に際し、ハラペコに背を押されたことでやっと前に進めたコレットが、そのハラペコを取り戻すために自ら歩を進めるのが、熱い展開です。
 ヒンヤリが「この国あんまり好きじゃないからもう帰る」と言い出し(フリーダム)、各国戦争状態になっている&八百万神形式なので神としての力がほぼ出せない、で、食べ物の豊富な国への愛着実際ゼロなのでしょうが、ここで眠くないと獣使いの時のように『世界樹と立場なり替わろう』にならないのは、ハラペコに葉っぱの傘を手渡される優しさを受けたことが効いている部分もあるのでは。
 やはりコミュ力コミュ力はすべてを解決する。
 暑がりやがペレグリナスの力を譲渡されている人だと知ったヒンヤリがどうなるかは、引き続き気になるところ。暑がりやが白髪になった回で既に勘づいている可能性もありますが。
 「この世界でやっと見つけた希望が消えてしまった?自分のせいで…」(なんだろう…これがどれだけ…悲しい気持ちなのかわかる…)
 も、ヒンヤリから暑がりやへの執着ありきの発言なのでしょうし。
 他人から刃を向けられた上、世界を照らす光であるコレットを失ったと思い込み、この世界を放棄してヒンヤリに手を伸ばすハラペコ。一方、風で木の幹から落ちるコレット…を抱きかかえる、フラカンに乗った獣使い!
 ルカ&サムソンによって再登場は確信していたものの、そう来なくてはというシチュエーションで、超嬉しかったです。コレット落下の引いた一枚絵から、見開きのフラカンの上という演出も、上質な絵本のようで素晴らしい。
 そして、登場は格好良いのに、コレット(一応幼馴染の女の子)相手にどもる獣使い。派遣された国で事実婚状態だし、同時に女の親族たくさんできたけど、それはそれとして、根が陰キャ
 ハラペコ救出のため世界樹の上を高く飛んだところ、目が合った瞬間に殺し合いに発展する獣使いとヒンヤリ。そういえばこの二人、初めて会った際もノータイムで殺し合いになっていたのでした!ヒンヤリは夜の長い国ではエリーに斬りかかられてるし(自業自得ではある)そりゃあ傘手渡してくれる優しいハラペコには懐きます。
 殺し合う二人を横目に、異形の怪物に一歩一歩近づくコレット
 「みんながお前が食べたいもの作って持っていけって」
 「ほ…ほんとの僕は…こんな化け物で…」
 「そうじゃないだろ ほんとのハラペコは 末っ子で甘ったれてて 仕事はゆっくりだけど丁寧で それで いつも大事なことはかくしてるけど 何か食べてる時だけ本音なんだよな あたいは料理人だから けっこうそういうの嫌いじゃないぞ」

 ハラペコって、空腹回避して正体を隠蔽しなければならない都合上、周囲の協力を得るために社交性スキルを高めざるを得なかった少年なのですが、元々そういう打算はあったとはいえ、ハラペコ自身が積み上げてきた厨房仲間を代表とする周囲との関係そのものは誠実でした。そこを論拠にして、コレット「ほんとのハラペコ」を語るのが凄く良かったです。
 ハラペコ→コレットは恋愛感情も含むのに対し、コレット→ハラペコは現時点でそういう感情おそらくゼロなの、当初は不憫で笑ってましたが、コレット側が恋愛感情を含むと、どうしても一対一の関係になってしまい、ここで『ハラペコが培ってきた社会との絆の接点』という役割を背負わせづらかっただろうなと、二人の関係性が今更になって腑に落ちました。
 また、このコレットの微笑みは、外交前ハラペコにイチジクとチーズとハチミツのパイを食べさせた時と、幼少期異形のハラペコにフレンチトーストを振る舞ったときを踏まえているのでしょう。
 ハラペコにとって『食を振る舞うコレットの微笑み』は希望の象徴。異形の怪物も美少年も全てハラペコだと認識されたあとも、かつてと何も変わらない微笑みを向けてくれたことで、手放しかけたこの世界に対する執着を自覚します。

 「みんな 僕がこのままだと嫌いになる?」
 「みんな こうだったらいいなって思わない日はないよ とりあえずジャスティスがゾーイに聞いてみたらいいんじゃね?お前仲良くなったじゃん」
 「うん そうする」

 合間に人型のハラペコが挿入されるのは、コレットの美しさへの羨望(こうだったらいいな)も感じるところ。奪われた髪留め、何らかの形で回収欲しいな。
 ジャスティス達の存在もハラペコの居場所として活き(おそらく、前回ジャスティスが即正体見破ってくれたことも効いている)、友情の要素もクローズアップされるハラペコ編はなんとなくジュブナイルものの趣を感じて、そこが好きです。あー、おもしれー漫画。