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批評や分析ではなく個人の感想だよ

ゴールデンカムイ最新話まで読んだ

ゴールデンカムイ』最新話まで全話無料公開。コミックサイト“となりのヤングジャンプ”、アプリ『ヤンジャン!』で9月17日まで【最終章突入記念】 | ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com https://www.famitsu.com/news/202107/29228582.html @famitsuより

 

 これ全部読んでまんまと全巻揃えた(チョロ)

 もともと網走監獄編終了までは単行本&アニメで把握しておりまして、買いそびれてズルズルとフェードアウトだったのですが、一から読み直してどっぷり。今2週目を読み終えました。

 

 ウコチャヌプコロやラッコ鍋や精子探偵といった、初見の最悪なインパクトが強くその点が取り沙汰されがちな作品ではありますが、一方で、種族も性別も年齢もちがう杉元&アシリパコンビの関係性の書き方が真っ当で美しかったです。こういう作風だからこそ、二人の清らかさがより光る面もあるのかも。

 作者のインタビューに「(デリケートな題材を扱う上での)トラブルは悪意からではなく無知から生まれる」という言葉があったのですが、杉元のアシリパさん(アイヌ)への接し方って、変に平等とかではなく、相手の文化や背景の違いの部分を尊重して寄り添ったもので、そこに敬意を感じるのが気持ちよく読める所以なのかな、と思います。

 序盤アシリパさんに組むことを持ち出した杉元が、彼女のコタンに寄ることで、帰る場所のある子供を連れ回すことに罪悪感を覚えるシーン。ここをちゃんと気にすることが出来る杉元にグッと好感度が上がったのですが、心情面において、触れて欲しかった点、期待していた点をきちっと抑えてくれる作者のバランス感覚は信頼できるところ。齟齬にきっちり切り込むため、ギスギスが長続きすることなくノンストレスなのもよかったです。その上で、気遣いや思いやりから踏み込めない部分がある、というのも人間関係の厚みが出ていてとても好き。

 ストーリーも緻密で、伏線が細かく配置してあり複雑にからみあっているので、2周目でやっとのみこめた部分も多々でした。

 またこの"初見のインパクトだけに頼らない"点は、ストーリー展開のみではなくキャラクターにも当てはめられるところかなと。

 どのキャラも初登場シーンが軒並み奇抜で、ワンシーンでその人の人となりをがっちりつかめるのが優れた演出なのですが、そこから作中で各々が、ここまでに至る生育歴人間同士の化学反応を踏まえた成長や闇落ちをし、掴みの外連味だけに頼らない奥深い人間造形が展開されるのが、好みに合致したところ。

 で、この点でとにかく個人的なツボに入ったのが、白石と鯉登。

 帰る場所がない故に、自分のことしか考えずその場をやりすごして生きていた白石が、杉元&アシリパさんと過ごすうちに2人との友情がいつのまにか手放せない絆になっているのが、ベタだけどよかったです。

 樺太編で杉元との約束を守るためにアシリパさんのそばにいるくだり、杉元を怖がって逃げたりアシリパさんを飼い犬扱いしていた過去の彼を思うと感慨深かったのですが、旅中の「樺太で成長するアシリパさんを一番近くで見てきた」部分を抽出し、アシリパさんを庇護すべき子供として扱う杉元と、大人への一歩を踏み出し始めているアシリパさんの潤滑油になるキャラクターの活かし方が鮮やか。

 杉元とアシリパさんが築いた、人間性への敬意や淡い恋愛感情に基づく関係性は本作の大きな武器ですが、白石の友情が間に収まりトライアングルとして完成されていくことで、二人きりで世界が閉じてしまわなかったのは好みだったところ。

 鯉登は鶴見中尉のファンとしての登場から、キャラが大きく掘り下げられる樺太編の序盤では、荷物が多すぎて月島に怒られる・フレップ飲みに勝手に単独行動・クズリをナメて背中をかじられる、と役立たず幼女。しかし、旅中で成長を経た上で迎えたクライマックスのvsキロランケでは、月島と谷垣の上官としての立ち位置も活き、最もいい見せ場をもらったのが印象深いです。罠から庇い傷だらけになった月島を見て立ち上がる鯉登の表情が、凄まじく格好良いので必見。

 旅の終わりの210話で、崇拝していた鶴見中尉に対する自身の不信感と月島の中を巣食う闇という二つの問題が噴出するわけですが、231話で「思考停止の崇拝」でも、「救われた過去を反故にする造反」でもない、鶴見と月島ふたりを「見届ける」道を指し示した鯉登の脱皮は、本当に格好良かったです。命の誕生に合わせて終わりを見届ける宣言の生死の対比も鮮やかで、現状一番好きな回。

 まあでも、鶴見中尉の暗躍によりハイライトが入って鶴見中尉のファンに舞い戻る月島と、蘇る不信感に見て見ぬふりをした鯉登で再び雲行きが怪しくなっているのが辛い部分ではありますが。ここで鯉登がフタをしたのは何よりも「月島のため」なので、もう一度ジャンプアップを見せていただきたい。

 

 今作のキャラほとんど好きなのですが、5人にしぼると、鶴見中尉・鯉登・月島・宇佐美・牛山と露骨に第7師団に偏る。

 もちろん主役トリオ大好きですし、土方陣営もデキるおじさんおじいさん+ぼんくら+成長途上の青年、は渋みがあって好きですが。

 大きな流れに狂わされている人間達というのがもともと好きな造形なので、第7師団はお気に入りです。

 渦巻く狂気の指揮者は鶴見中尉なわけですが、中尉の本心はわからないけれど、彼も何かに狂わされずにはいられなかったのではないか、と思わせるあたりが、良い作中悪だと思います。

 チンポ先生だけ第7師団以外から挙げましたが、化け物クラスの強さで作中屈指の紳士度なのが、超格好良い。すでに性的な対象としては見ていない家永にご飯を食べさせてるコマ凄い好き。優しい。

 逆にウイルクは苦手なキャラなのですが、(アシリパさんが期待に応えられるポテンシャルのある子供だから結果的に良かったものの、そうではない子でもサバイバル技術仕込むタイプだろ、こいつアシリパさんに寄り添おうとする杉元がウイルクをちゃんと批判することで、読者の負の感情の行き場のクッションとなるのがうまい部分。

 一方、子だからこそ先陣を行かせなければ他の子に申し訳が立たない軍人で親の鯉登父からウイルクのフォローが入るのですが、その鯉登父こそ息子が命を失うことを恐れている人であるということが、函館誘拐の件で痛いほどわかりました。ウイルクをただの嫌な人にしない配慮が散りばめられており、作品の質を高めることになったと思います。

 まあ、総合して、ウイルク……苦手ですが!!ファンブックコメント読むと彼が若い人に受け入れられづらいの織り込み済みだったっぽい。すまん。

 

 最終章は単行本でのろのろ追いかけるつもりです。

 海賊房の死が最終章に向けての発射台となりましたが、彼によって杉元・アシリパ・白石に「終わった後に何をするのか」の要素が入ったのが気になるところ。

 海賊房って「帰る場所がほしい」男だったわけですが、杉元は帰る場所を失い、アシリパさんは帰ることができず、白石は帰る場所がもともとないわけで、着地点としては3人が帰る場所を見つける物語になるのかな、とは。

 土方陣営と鶴見陣営は頭目の考えすらわからないのでどう転ぶか皆目見当つきません!なんとなく、夏太郎・門倉・キラウシ・鯉登は生き残りそうな感じはしますけど。敵首領の思惑がわからないまま最終章まできたのに各陣営がちゃんと個性立ってるのがすごい漫画だ。

 尾形は第4の陣営(ピンだけど)となりかけてますが、勇作さん関連でもう一捻りあればいいなと思います。

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モス(モス違い)