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批評や分析ではなく個人の感想だよ

探偵・癸生川凌介事件譚 Vol.4「白鷺に紅の羽」感想

1作目感想
2、3作目感想

 四作目クリアー。癸生川シリーズを一作目から順に遊んできて、ナンバリングが進むごとにゲームがちゃんと洗練されていく感覚を味わっていたわけですが、もう、そういうレベルの話ではない。
 ダントツに面白かったです。
 ストーリー・演出・BGMが素晴らしくて、10年以上前にガラケーでこういう物語がつくれるんだということに、感動しました。以下ネタバレ感想。



 プレイヤーは記憶喪失の主人公・楓さんに感情をシンクロさせつつ、古い因習が残る村の中を探りゲームを進めていくことになりますが、ストーリーの動きに伴うプレイヤーの立ち位置の変化が、実に良くできています。
 記憶喪失の楓さんとプレイヤーがシンクロ→舞台に深く関わっていく→心情が離れるきっかけ→切り離される、の動きがスムーズで、物語に乗っかりやすい。
 これが書かれる上で良かったのが、シリーズのお約束である、『終盤に真相を引っ提げて登場する癸生川』を活用していること。
 癸生川がもたらす真相って、1、2作目では伊綱さんの推理を上から無理矢理乗っ取る感覚があり、なんだこいつ感が否めませんでした。(3作目ではだいぶ改善されておりますが)
 しかし今作は、伊綱さんを庇おうとする楓さんの味方になってくれる人はおらず、八方塞がりの状況になり、楓さんとプレイヤーの心細さがリンクする中、癸生川が登場することで、プレイヤーのみが物語の終結を意識し、安心できるようになっています。
 ここで、癸生川を知らないので安心できない楓さんとプレイヤーの間に距離が生まれます。その後、楓さんが記憶を取り戻してプレイヤーと完全に切り離されることに。
 癸生川を利用した秀逸な仕込みですし、プレイヤーをホッとさせる癸生川自身はあくまでいつも通りの奇矯な振る舞いなのが、これまた良い。


 構成の話でもう一点、序章の伊綱さんと珠恵さんとのやりとり。エンディングを迎えた後だと二人の言葉の一つ一つの意味が理解でき、真のエンディングに見えるつくりは珠玉。今作の肝は序章だと思っています。珠恵との過去の会話から流れ出す音楽とテキストの演出も滅茶苦茶気合が入っている。


 あくまで自然体でこれを言い切るからこそ、伊綱さんは格好良い。
 なんかベタぼめですけど、物語要素を強化したひずみで、プレイヤーが介入できるような謎解きとしては微妙な出来でした。でも、些細な問題。長所と差し引きして十分すぎるプラス。

 レギュラーキャラクターは新たな一面が色々見えて嬉しかったです。やっぱ物語ってキャラクター面白くてナンボだと思うので。
 今作は「伊綱さんが探偵になる物語」だったわけですが、ある種主人公の伊綱さんが開始数分で既婚と判明し、ビックリでした。
 和製のミステリーゲームで20代前半の助手ヒロインが未亡人ってなかなかないのでは。二作目において「大切な人を失っている」布石は撒かれていたので、無から湧いた恋人感はなく、すんなりと腑に落ちましたが。
 珠恵さんに「私みたいな娘なんて…」と言いかけてやめ「そんな名前にしたら、えらい美人になっちゃって〜」と言い直すシーンがありましたが、高校時代の彼女って暗かったですし、伊綱さんの素ってきっと「私みたいな」の方にあるんだろうな。
 今は飄々としている伊綱さんですが、それは死者との「約束」を守り続けているからにすぎません。そして、守り続けるためには、黒ずんだ指輪と「白鷺洲」の苗字は絶対に必要なものなのでしょう。それこそが彼女が奮い立たねばならない証なので。
 …道中ちょろっと触れた程度の危難失踪が、ラストこういう形で回収されるとは思いませんでした。
 そして癸生川もラストシーンで、突然押しかけた伊綱さんを当然のように迎え入れる姿が格好良かったです。人の20歩先を行く癸生川ならでは。
 今まで、癸生川って伊綱さんに対して見えにくいところで少し気遣いがあるよな〜と思ってたんですけど、元助手の意志を継ぐために強く生きようとしている、本当の伊綱さんの姿を知っていたからか。
 その伊綱さんが一生想い続けるであろう夫で、癸生川の手放したくない有能な助手で、人の心を読む能力に長けてる涼二さん、チートすぎる。
 伊綱さんは涼二さん大好きな一方で、涼二さん側からの感情は、大事な人だとは示唆されつつ深くは突っ込みませんでしたが、ちゃんと伊綱さんのこと性的に好きなのだろうか…。とにかくおいしいキャラなので、再登場あって欲しい。


 突然仮面ライダーゴーストのOPがよぎって笑ってしまった(人は死ぬよ必ず死ぬ)
 涼二さんの伊綱さんへの感情とあわせ、楓さんの伊綱さん&龍希さんに対する想いとか、伊綱さんの「好き」だとか、各キャラクターの本心を想像はできるものの、キャラクター自身は明言しないスタイルが貫かれたのは、好きなところ。口にしたら大切なものを失ったり傷つけてしまう恐れゆえでしょうし。
 そういう、最後まで秘めざるを得なかった心の内とか、メインテーマの旋律とか、紅葉に色づく山と一羽の白鷺の景観とか、細部に至るまで一つ一つが美しい。そんな一作。
 
 楓さんが最初崖から落ちてた理由だけがわからないのですけど、テキスト読み飛ばしてしまったのか、私。