.

批評や分析ではなく個人の感想だよ

バディミッションBONDクリアした

f:id:pppm:20210308232248j:plain

 

乙女ゲームスタッフ開発の男同士バディものとか、正直全く好みから外れるので最初は忌避していたのですが、ビジュアル村田雄介だからあからさまにボーイズラブに舵切ることはないだろうというのと、ツイッターの絶賛の嵐で背を押され、プレイ。

 

もう、超ツボでした。

以下ネタバレ

 

 

 

 

 

bondのタイトル通り「絆」の物語だった。

 

愛や正義と同じく、ヒーローフィクションにおいては特に最初からそこにあるものとして無頓着に振り回されがちな、漠然としたキーワードではありますが、今作がうまかったのはその絆が成立する前段階として、"相棒"に焦点を絞り、そこから派生する仲間や島で暮らす人々といった「つながり」を丹念に書いたこと。

それを象徴する"手を繋ぐ"行為が、要所要所で挟まれたのも良かったです。

また、Bondの四人が「絆」を後ろ盾に人の心の柔らかい部分に土足で入り込むようなことがなかったのは、好みに合致した部分。

このデリケートな距離感の描写があったからこそ見易かった部分が大きかった。(モクマとチェズレイはお互いのテリトリーを踏み荒らしてますが、作品が自覚的に人との距離感を大事にしている上での計算された描写だと思います)

 

で、その絆の終着点にあるのが、真エンドのルークとエドワードのやりとり。

かつて、誰とも「つながっていない」ことに絶望していたルークが、自分の記憶からまた「つながり」が失われる場面に直面する。

しかし、たとえルーク自身が忘れても、相棒が、仲間が、自分の記憶を背負ってくれる限り、それが本当に失われたりはせず、「絆」は何度でも結び直せることに気づく。

だからルークは最初に「つながり」をもたらしてくれた男と「つながる」ために、微塵も躊躇わず手を伸ばすーー。

 

ヒーローになろうとする男の結実が、ルークがエドワードの手を握った瞬間であり、今作の絶頂はここ。

 

ノーマルエンドのエドワードとの断絶も好きなんですが、それを叩き台にして、真エンドがより深く染みるようになっている構造も秀逸。

 

また、その延長線上に、たとえきっかけは嘘の「つながり」でも、泣きじゃくる自分を抱きしめてなだめてくれた父の腕の中で、心に満ちたあたたかい気持ちは本当だったと悟るルークや、虚無と称されるエドワードの中に情がめばえつつあったのも、救いの落とし所してよかったと思います。

 

はじまりは嘘だとしても、そこで芽生えた父に対するルークの愛と、エドワードの戸惑いは、本物。

 

それを集約した台詞が「僕はーー父さんに育てられたヒーローなんだから」。

ということで、真エンド回想ムービーの抱きしめ合うウィリアム親子は、一番好きなシーンです。

 

 

で、今作のテーマを示す上で最も重要なギミックであった相棒ですが、正反対のルーク&アーロンがヒーローとして成立する物語を、ストレートながらも丹念に書き、その裏で、欠落を抱えたモクマ&チェズレイが憎悪と情念の末に生きる意味を見つける、王道・邪道の相棒対比構造が冴えていて面白かったです。

 

ルークとアーロンは、警官と快盗の真逆の立場の2人が相棒としてヒーローになろうとする物語の中に、ヒーロー少年とルーク少年のヒーローごっこが二重の仕掛けとして機能し、"ヒーローは2人でなければならない"理由に、大きな流れを汲んで芯が通るのが、本当に素晴らしかった。

 

ヒーロー性のルーツだと思われたエドワードの種明かしがわりと後半にあり、定期的に目が死ぬルークに対して、アーロンはカジノ編経て以降は精神的にほとんど揺らぐことはないのが、格好良い。

ルークに差し伸べられた手を握ることで前に進めたアーロンが、今度はイアンに手を伸ばせるようになった変化はグッときました。カジノ編以降のアーロンはホント、おいしいポジション。

 

カジノ編はアーロンがルークに救われたとかもうそういうレベルの話ではなく、過酷な地でヒーローを待ち続けた末に諦め、ヒーローなんていないクソみたいな世界でも、手の届く範囲だけでも守れるよう、ずっと戦ってきたルーク少年(アーロン)をも、全てひっくるめて無自覚にルークが救ったのだと、ゴミ捨て場にて後々理解できる遅効性のつくりになっています。

 

ルーク少年の真の救いを理解したからこそ、復活するヒーロー少年(ルーク)のヒーローゲージも、もうただのゲームシステムではないんですよね。

ルークがアーロンと共に、過去も何もかも全てひっくるめてヒーローになる物語の意味がヒーローゲージに落とし込まれ、ここにきてシステムが物語とバッチリ噛み合う。

 

捜査パートの聞き込みが「人とのつながり」を象徴するものであり、だからこそ捜査対象者と関連するメンバーで聞き込みに挑まなければならない、と理由づけがなされるあたりもそうなんですが、最初のうちはどうだろうかと思っていたシステムが、終盤にかけてパズルのように物語にバチバチハマっていくのが、大変気持ち良かったです。

でもQETは最後まで合わなかった。

ライトユーザーもクリア出来るようにの措置だとは思うんですが、その割にはタイミングが異常にクセがあるし。誰がこれ考えたんだ。

 

話がずれましたが、片方が片方をヒーローにするのではなく、ヒーロー少年とルーク、ルークとアーロンの間で「2人でヒーローになろう」の円環が貫かれてるのが美しい。

 

ルークは力の及ばなさから警察を離れ、アーロンは諦めから国を離れて出稼ぎ(という名の犯罪)してたわけですが、人の力の源を信じられるようになった2人が、今まで背を向けていた場所を見つめ直すのは、爽やかでらしい着地。

お別れもあっけらかんとした陽性のもので変に湿っぽくならず、よかったです。一度別離を経験していてもこうしてまた相棒になったことを論拠に、離れていてもずっと相棒であることに、綺麗事などではない説得力がありました。

 

 

対するモクマとチェズレイは、最終的にはもう添い遂げる勢い。

 

モクマはナデシコさんと湿っぽい諸々があったと思うし、チェズレイも美女とワンナイトラブしていて、2人とも女性との性的なかかわりを匂わせているのに、お互い以外と一緒にいる未来が全く見えない…

まあでも、モクマはチェズレイへの情も恩義もありつつ、一緒にいるのは守り手として仕事しやすそうだからだし、もしチェズレイが道を踏み外したときのストッパーになることも示し、べったりの馴れ合いではなく、命のやりとりの間柄として一線はキチっと引いていたのはいいバランスでした。

 

今作何がうまいかって、ドライかウェットかで言うとどちらかというとウェット寄りな作風ではあるけれど、過剰に寄りすぎない描写のバランス感覚が、抜群にうまかったです。これ以上寄っていたら多少引いてたかも。

 

序盤ルークは「アーロンにとってのアラナ」アーロンは「ルークにとってのヒーローへの夢」と、お互いの大切なものを尊重しながら丁寧に関係性の構築をしていきます。

一方のモクマとチェズレイは、チェズレイの「愛憎の存在」と重なることで彼の真っ黒な感情を無意識に刺激してしまったモクマと、モクマの触れられたくない「主君殺し」の心の闇をチェズレイが意識的にぐちゃぐちゃにひねりつぶし、お互いに嫌悪感をつのらせる、傷だらけスタイル。

 

一見、死にたいモクマと殺したいチェズレイが需要と供給ベストマッチしているように見えて、「善人のまま死にたいので自分を殺してくれる都合の良い殺人者としてチェズレイの殺意を受け入れた」モクマと、「ファントムと重ねたモクマの下衆さを憎悪しそこを醜く引っ張り出してから殺したい」チェズレイは、根本的には致命的に噛み合っていなかったといえます。

 

そして、モクマは罪からの逃避をチェズレイに重ね、チェズレイはファントムをモクマに重ねており、実は"過去に囚われるがあまりお互いを見ていない"

しかし、鍾乳洞でモクマ本人も罪悪感から蓋をしていた「守らせろ、最後まで」という本音をあばくチェズレイを通し、モクマとチェズレイは真の意味でただ一つしかない風味をもつお互いを理解する。

 

カジノ編とマイカ編のアーロンとモクマは共に「守りたい本音を経歴から押し殺さずをえなかった」人なのですが、アーロンにとってのそれは「過酷な環境により手の届かない夢」である一方、モクマにとっては「受け入れたくない罪と罰」であります。

アーロンが幼いころから変わらない、滑稽ともいえる純化したヒーロー性をもつルークに手を引かれる前向きな形で夢を思い出すのに対し、モクマはチェズレイとの殺し合いを通して本音を自覚し、辛いけどそれでも生きて償っていく形で着地するのは、2組の対比構造がバッチリ活きました。

 

あと、言ってしまえばモクマは死者との、チェズレイはファントムからの呪いに囚われていたわけですが、

そこから解き放たれた(もしくは、最初から呪いではなかったことに気づいた)2人が改めて繋がる手段が、指切りーー「約束」なのは、とても好き。

繋がる理屈は「あなた以外を殺さない」で初期から一貫してますが、その約束を建前にして「死ぬまであなたと一緒にいたい」柔らかな感情が見えるところが、なんともロマンチック。

チェズレイが一度モクマの喪失を経ていることもあり、一緒にいたい願いがより滲み入る形になりました。

もう、チェズレイが重い。モクマがドライにかわすことでさっくり見れるけど。

エドワードサイドエピソードにおける、イマジナリーフウガ様とのキャットファイトとか、完全に元カノと今カノ。

 

 

と、2組のメインバディはさすがに力が入ってて良くできていたのですが、それ以外の組み合わせもバディとして丁寧に描かれたのは面白かった点。

単純計算で絡み3倍に増えるので大変な労力だったとは思いますが、対応する相手によって接し方が変化するのは、キャラクターに奥行きが出て好印象。

 

特にチェズレイの救いはモクマだけではなく、同じくファントムに騙されていたルークに対する感情の変化もあったからこそだと思います。

 

愛憎で濁りきった絶望の中で母が死に、自らもそのような生き方しかできないと思っていたチェズレイが、ルークを通して子供時代の自分を認識し、母親から与えられていた愛に気づく。

そして自らも、敬愛するルークに穏やかな愛をお返しできるようにり、自分の中にあった母親とのあたたかい「つながり」に気づく。

 

よかった風に描きつつ、プレイ中はまさか男が2歳違いの成人男性に対して幼い頃の自分を投影した上で母性を抱くとは思わず、着地がアクロバティックすぎるだろ

野菜と身を案じる長文の手紙送るって、田舎の母親!?

 

こうして振り替えると、ルークとアーロンは人間がヒーローになる物語、モクマはヒーロー(守り手)であることを通して人間として生きる物語、と、3人はヒーローをわかりやすく関連づけた結末を迎えてるわけですが、チェズレイだけはちょっと違った印象。

 

最終的にチェズレイが人を守るのは、英雄的大義の意よりも、モクマ・ルークと結んだ「約束」が大きいと思います。

具体的に言うと、モクマと結んだ「あなたが生きている限り私のターゲットはあなただーー他の下衆には手を出さない」と、ルークと結んだ「DISCARDの追跡よりも優先してほしいことがある それは、人を見捨てないことだ ひとりでも多くの人を救うことだ!」のふたつ。

それを守ることを徹底する律儀さや美学が芯にあり、作中のチェズレイはずっと個人的な理由(大切な人への愛憎と親愛)のために動いていた、といえます。

 

そして、その個のあり方が全を守る理由に接続する点も、ヒーローフィクションのうまみではあるわけで、チェズレイは悪党ポジションでしたが、それと同時にヒーローものにおける根源的な部分を書いてると思います。

そういう意味で、ルークがチェズレイを捜査に誘った時の「その君も、試しに 身近な人を助けてみる気はないか?手始めに僕あたりを」は、わりと本質をついた台詞なんじゃないかと思うわけです。

 

主役4人みんなそれなりに思い入れあるんですが、チェズレイは底の見えない詐欺師と、執着相手への情念顔芸と、過保護な田舎のお母さんの間を猛スピードで反復横跳びする、独自路線を突っ走ったいいキャラ。

美学という名のマイルール頑に遵守する律儀さが貫かれたのも、可愛い愛嬌になったと思います。

 

ファントム関連はルークメインになったのでちょっと割りを食ったところもありますがでもそこは、宿敵への復讐よりも、それを上書きしてくれた人を愛することや支えることに本質があるキャラなので、あまり構わないところに着地したかなと。

 

あー。というか、ここまで打ってやっと気付いた。

ルーク・アーロン・モクマがわかりやすく壁をのりこえているのに対し、チェズレイは、ファントムからモクマに執着スライドするだけってどうなんだとずっと思っていたのですが、大事なのは多分執着そのものではなく、"執着を抱えてどう生きていくか"、なのか。

 

執着に由来するチェズレイの人生の目的が、ファントムを憎んで濁って死ぬことから、濁りを背負いながらモクマと共に幸いのために生きることに変化している、のがミソっぽい。

 

そうなると、モクマの「本懐を遂げた後はお前を傷つけるもののためじゃなくーーお前を幸せにするもののためにその熱量を使うといい 心が報われるたびに濁りも重みも増してく そういう日々を送ったらいい」はかなりチェズレイのテーマを端的に表していた言葉なのかな、と思うところです。

 

モクマも合わせて「人間として生きる物語」の意がより強く浮かび上がり、大変良くできております。

 

 

あと本作を語る上で欠かせないのが、悪役の描写の良さ。

DISCARD組織力はアレでしたが、各ボスのイアン・フウガ・エドワード(ファントム)は、それぞれ悪として全く別のキャラ立ちしてて、よかったです。

 

相棒の喪失を経て悪に染まらざるをえなくなり、正義に倒されることを望むイアンの、掲げた信念に殉じる様は、最後まで風格を損なうことなく格好良い。

なんか、振り返ってみるとイアンはアーロンifだったっぽい。

チェズレイからある種の共感を覚えている様子と指摘もありましたし。

これは、ヒーロー少年を失ったあと、奪う側・犯す側に堕ちてしまった自分を重ねていたのかも。

 

ゴミ捨て場の添い寝スチルに強烈な既視感を感じたんですけど、これ、ラブプラス+の旅行深夜の添い寝スチルだよ(最悪の連想)。

f:id:pppm:20210308232325j:plain



上司がクソすぎて、物語の因果応報を考えたときに、死亡だとやりすぎかなと思っていたので、ナデシコさんに拾ってもらって良かったです。

ナデシコさんのスパダリ力は全てを解決する。

シキとのバディでスピンオフ作ってほしいな〜と思ってたら、ゴンゾウとのバディミッションが爆誕した。

言われてみると、二人とも傍若無人上司を持ってしまった真面目で不幸な境遇の人だったスパダリ上司のもとで働けてよかったですね。

 

フウガ様は子安武人の高笑いが一級品で、これはもう、キャスティングの勝利。

そういえば、うまーいと叫びつつ豊かな語彙で食レポをするルークや、本当の紳士を目指すノボルさん(髪型もちょっと寄せてる?)見る限り、制作スタッフにジョジョファンがいたりするのか。

 

全方位に愛憎執着を振りまいておりましたが、もともと苛烈な性格傾向ではあったものの、寄ってくるものみな利益目当て・近付きたい人は遠ざかる、と、対等に付き合える人間がそばにいなかった生育歴が、フウガ様の歪みの決定打にあったと思われます。

同年代・同性・フウガ様を上回る才能持ちのモクマが彼と真っ直ぐに向き合うことができなかったことは、確実にフウガ様がああなる一端を担っていると思うので、それも一緒に背負って生きてくれるようでよかった。(詐欺師がジェラシーに喘いでおりますが)

 

元城住みルートの日記読んだんですが、イズミ様に似た女を孕ませてコテツができたって解釈でいいのかな。えぐすぎます。

愛した妹本人対しては、ポッと出の男と駆け落ちする最後の最後まで、いいお兄さんを演じきっていたであろうことが、いじらしい。

 

そんなわけで

イアンは「つながった手を失ってしまった男」

フウガ様は「誰とも手をつなげなかった男」

な印象なのですが、エドワードは

「つながった手の意味かわからなかった男」

なんじゃないかなと。

 

最初は「つながった手を振り払った男」だと思ってたんですが、真エンド辿って印象が変わった。

 

エドワードは、正義の味方・父親キャラということで、衛……嗣の影が脳内でチラつき、私は嗣がこの世で一番嫌いなキャラなので、エドワードにも身構えていたのですが、最終的に一番好きなキャラになりました。

本気で普通の父親だと思っていたので、14章は驚いた。

嗣のせいで、完全にとばっちりを自覚しつつ小山力也にも苦手意識があったのですが、それを払拭させてくれました。言葉を発する前の溜めというか、言葉にならない吐息が、もう滅茶苦茶格好良い。

 

崩れることがなく常に余裕なのが威厳あっていいなと思っていたのですが、崩れないのはそもそも崩れるための感情をもってないから。

その上で個性統一化による争いの防止を掲げるのは、エドワードが単純な悪ではなく、多種多様な人との「つながり」に正におくルークと対になる、極端な英雄的大義の末だと感じます。

 

また、感情を邪魔なものだと断じつつ、「人類が均一化されれば俺は唯一の『個』になる そうなって初めて俺は、本当の感情を得るのかもしれない」「お前の言葉が、響くような父親だったらよかったのにな」と語るのは、感情への憧れのニュアンスを強く感じました。

 

最後はルークがエドワードを乗り越えていく、父親超えの物語なのかな、と思ったんですが、エドワードが憧れのヒーローだったこともそれに影響を受けていることも初めてつながってくれた人だということも、全部自分の中に"呑みこむ"と言う形に。

アーロンとの過去をルークがしっかり胸に抱いたことをこの前提に設置していたことも機能し、「つながり」を重んじるがゆえに、痛みを伴う過去をも大切に拾い集める、ルークというヒーローのたどり着いた場所らしくて、よかったです。

 

繰り返しますが、エドワードは謀るつもりだったとしても、それによってルークが光を与えられたことは事実であり、また、ルークが父親としての自分にすがる様子を見て、自分でも解釈できないためらいが出るエドワードは、超好き。

 

「ヒーローがふたりって そりゃ、最強の相棒だよな」を「嘘から出た真」と称してましたが、父さんの名前を呼ぶルークの姿に、本人無自覚に心が動かされてしまったのも、同じく嘘から出た真だと思います。

 

エドワードにとっての感情はもともとあったものが兵器として育てられるうちに失われてしまったものなので、これから積み上げていけば、ルークがどうして泣いていたのかも、わかるようになるんじゃないかな。

とは言いつつ、未来の父さんや父さんに似ている人に手を差し伸べるとルークが断言している上で、幼少期のファントムに「つながり」あたえるのはファンサービスに過ぎる部分もあったので(勿論嬉しいですが)あくまで、もしもとして貫かれたのは良いバランス。

 

 

ヒロインもプレイヤーに愛されるような製作陣の気遣いが感じられてよかったです。

 

ナデシコさんは最初の頃はもっと非情寄りの印象でしたが、目的のために露悪的にふるまいつつ、根っこの部分では非情になりきれない女で、想定していたよりも軟着陸。

 

車でお迎えに上がるシーンとか全人類を抱く勢いのスパダリっぷりでしたが、そんなナデシコさんの震えが描かれる若モクマとのサイドエピソードは、多面性が出てお気に入り。

主君殺しの罪を抱えるモクマに、「望む生き方」を自覚させた人はチェズレイなのですが、その前段階である「生きろ」を与えたのは、里の外界で初めて「つながった」ナデシコさんなんですよね。

 

スイさんの初恋はこれからはじまるのに対し、ナデシコさんの初恋はもう終わってしまったもので、これからもそれが蘇ることはないけれど、その上で今のモクマを昔よりずっと素敵だと思えることが、美しい関係。

それにしても、幼馴染と詐欺師に愛憎を燃やされ、お姫様と美女警官の初恋になるモクマさん、業が深いな。

 

スイさんは努力に裏打ちされたプロフェッショナルエンターテイナーと、普通の少女の脆さのアンバランスさが可愛かったです。

ルークのヒロインとして真っ当な見せ場が多かったところも、ポイント高し。

 

ルーク×スイさん関連は、スイさんのかわいい恋が希望のある形で終わって欲しいとは思いつつ、「ルークと腹違いの兄弟疑惑浮上」「未成年に手を出す警官最悪」の二大地雷が浮かび上がり、プレイ中はイマイチ手放しで萌えに踏み切れず。

しかし、一見恋愛ごとは鈍感難聴系主人公に見えるルークが、スイさんが泣き出しそうなのを察し好物を差し出す・一緒に居たそうなのを汲み上着をかける・といった細やかな気配りでいい男成分を積み、最後にはいつか大きくなったスイさんに告白を委ねたのは、未成年に好意を向けられる成人男性として、百点満点の対応でした。兄妹地雷も無事回避したし。

 

モクマさんが老若男女関係なくときめくあたりもそうですが、バディミッションは性愛の描写がかなり今時にアップデートされていた印象。

 

糖尿病が不安なカップルだな。ルクスイ。

 

両親にもらったあたたかさをルークにお返ししたいと語ったスイさんが、今度はシキに、毎日の電話を通して家族の「つながり」をあたえる姿が格好良くて、ほんといい子。

ルークがシキをお義兄さんと呼ぶ続編待ってるぞ。

 

そのシキは、陰陽師のような平安貴族装束・穴あきグローブ・女顔・内気でネガティブ・天才ハッカーCV内山昂輝って、狙いすぎな印象だったのですが、

自分を捨てた親の存在を知ったときに、憎むのではなく、捨てられた自分が欠陥品だったと考える自虐的な思考の傾向が見えたことで、一気に血が通った印象。

その上で、キズナ計画を利用するのは、皆が同じになることでやっと自分が皆とフェアな位置に立てる点が理由にあったのは、納得でした。

 

というか、だれとも「つながってない」自分の欠陥に絶望している男の子って、まんま幼少期のルークですが、シキは裏主人公だったのかも。

真エンドにおけるアッカルド夫妻のメッセージシーンは家族愛の真髄ですが、シキ裏主人公説踏まえると、その後に少年時代ルークを抱きしめるエドワードがあるのは、エドワードの中に生まれた戸惑いの正体を示すものとして、かなり意図した仕掛っぽい。

 

で、ずっとそばにあった「つながり」を自覚し、生まれてきたことのお礼を償いに据えたシキが、手に入れた自らの賽で今度はイアンに「生きろ」を与える脱皮が描かれたのは綺麗な着地。

今作における賽は「生きる意志」や「選択する意志」といった推進力のことだと思います。

エドワードの人形同然の子供だったシキが賽を手に入れられるようにイアンが祈り、生きることを選んだシキがその賽をもってイアンを生かす。

この二人の賽振りは、真エンドに次いで好きなシーン。

 

居心地の良い場所で立ち止まってしまうのではなく、そこでもらったものを、その先どう返していくのか?が貫かれてるのも、今作が好みに合致したところです。

 

でもAIの父母を作成するのはシンプルに倫理観がイカれているので、この話スイさんにしたら、確実にドン引きされると思います。

 

そういえば、シキの正体は全然気づかなかったです。

バディミはフィクションに慣れ親しんだオタクほど、ミスリードに引っかかりやすい。

コズエ様がシキガミロボット抱きしめてる立ち絵は、ルーツ理解した今見返すと、実に趣深い。

 

 

とまあ、とりとめがなくなってきたので、とりあえずここまで。

後日追記とかするかも。

 

広げた風呂敷もきれいにたたみきり、一作の完成度が極めて高かったのですが、その上で続編の余地もありますし、漫画やアニメーション映えしそうな作品だと思うので、今後のメディア展開期待できそうでワクワクする。

表向きボーイズラブっぽいなからの真正面からヒーローの魅力に殴られたのは大変嬉しい誤算でした。

 

それ以外にもフックが非常に多かったので、老若男女問わず、多くの人にプレイしてほしいゲーム。

 

満足。